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『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』感想・考察|「かたわれ」は、一人じゃなかった(ネタバレなし)

『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』感想・考察|「かたわれ」は、一人じゃなかった(ネタバレなし)

監督 アリス・ウー

主演 リア・ルイス、ダニエル・ディーマー、アレクシス・レミール

製作年 2020年

上映時間 104分

ジャンル コメディ / ドラマ / 恋愛


※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


目次

視聴方法

Netflixで独占配信中(2026年6月時点)。最新の配信状況はNetflix公式で要確認。

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あらすじ

舞台は小さな田舎町スクワハミッシュ。中国系アメリカ人の高校生エリー・チュー(リア・ルイス)は、生活費のためにクラスメートたちの代わりにレポートを書いてお金をもらっている。そこへ人の良いアメフト部員ポール(ダニエル・ディーマー)がやって来て、思いを寄せる女の子アスター・フローレス(アレクシス・レミール)へのラブレターを代筆してほしいと頼んでくる。ところがエリー自身も、そのアスターに特別な感情を抱いていた。三者の間に、ちょっとほろ苦くて、笑えて、胸が痛い関係が動き出す。

見どころ

今まで見たことがない三角関係の形

この映画の三角関係は、どこかで見たことがある話ではない。代筆という仕掛けを通して、感情がじわじわと複雑に絡み合っていく。エリーの言葉はポールの言葉として届き、アスターの心を動かしていく。誰が誰を好きで、誰の言葉が本物なのか。そのもどかしさと新鮮さが、この映画最大の魅力だ。

哲学・文学の引用が、セリフとして生きている

プラトンの『饗宴』に登場する「かたわれ(片割れ)」の概念、詩人たちの言葉——そういった引用が、説明くさくなく、さらっとセリフに溶け込んでいる。レストランでのシーンでは、ほんの少しの言葉の組み合わせが人の感情を大きく揺さぶる。言葉の力を、映像ではなく言葉そのもので見せてくれる映画だ。

ラストが残すもの——余韻と、タイトルの意味

LGBTQ+をテーマにした映画は、報われない結末になることが多い。本作も冒頭からその予感を漂わせながら進む。ラストがどう着地するかは、ぜひ自分の目で確かめてほしい。ただ一つだけ言えるのは、「面白いのはこれから」というタイトルが、物語の終わりを「終わり」として閉じていないということ。切なさの中に、確かな温かさと希望が残る。

キャストについて

エリー・チューを演じたリア・ルイスは、本作のオファーを受けた瞬間からプロジェクトに強く惹かれ、それまで読んだどの脚本とも異なる手触りを感じたと語っている。ポールを演じたダニエル・ディーマーとともに、ウー監督は主要キャスト3人の選考に非常に時間をかけており、「このキャストとのやり取りがキャラクターを育てる」と確信できる俳優を探し続けた。それぞれが想像以上のものをもたらしてくれたと話す。アスター役のアレクシス・レミール、エリーの父エドウィン役のコリン・チョウ、ポールの家族を演じるキャサリン・カーティン、ベッキー・アン・ベイカーらも脇を固める。

ウー監督は演出にあたって、主要キャスト全員と深い対話を重ねた。まず俳優たちの考えを聞き出し、彼らの実体験の中から感情的な類似点を見つけ出して「あのとき話してくれたこと、あの場面はこういう感じだよ」と演技に結びつけていく手法を取ったという。

制作背景

監督・脚本はアリス・ウー。デビュー作『素顔の私を見つめて…』(2004年)の後、病気の母親を介護するために映画界を離れており、15年以上のブランクを経て本作を着想した。

着想元は17世紀のフランス劇作家エドモン・ロスタンの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』(1897年初演)。ウー監督は当初20代の男女を主人公として構想していたが、結末に行き詰まり、年齢を高校生に下げてラブレター代筆のプロットを採用したことで物語が動き出したと語っている※1。

脚本執筆は2016年の米大統領選後に開始。執筆が滞った際には、自らを追い込むために友人に1,000ドルの小切手をNRA(全米ライフル協会)宛に預け、「5週間以内に初稿を書き上げなければ寄付する」という誓約を立てたという※2。

台湾からの移民の両親のもとで育ち、自身もレズビアンを公言しているウー監督の実体験——かつて親友だった男性の恋人の存在によって友情が壊れてしまったという経験——と、リア・ルイスの繊細で含みのある演技が、この奇妙な三角関係に説得力をもたらしている。監督自身は「内容は事実そのままではないけれど、すべての感情は真実」と語っている※1。

撮影を担当したのはグレタ・ゾズラ。彼女の共感的なレンズが、エリーの表情にわずかに宿る感情の機微を繊細に捉えている。主要撮影は2019年4月22日にニューヨークでスタートし、5月31日に終了。音楽はアントン・サンコーが担当した。

当初2020年4月のトライベッカ映画祭ワールドプレミアが予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で同年5月1日にNetflixが世界配信。同映画祭では第19回ファウンダーズ・アワード最優秀U.S.ナラティブ・フィーチャー賞を受賞している※3。

感想

小さな田舎町の、代筆という静かな嘘から始まる話だった。

「今まで見たことがない三角関係」と書いたけれど、本当にそうなのだ。新鮮、という言葉が最初に浮かんだ。でもただの新鮮さではなくて、見ているうちにじわじわと切なくなっていく。笑えるシーンも散りばめられているから、重くなりすぎない。そのバランスが絶妙だった。

個人的にレストランのシーンがかなり好きで、ほんの少しの言葉の選び方の違いで、人の心がこんなにも動くのかと実感させられた。「言葉を選ぶとは、相手を思うということ」だと思う。逆に言えば、言葉を選んでいない人は相手のことを思っていない。この映画はそのことを、説教くさくなく、ちゃんと物語の中で見せてくれた。

哲学や詩の引用も、嫌みなく心にどしんとくる。「かたわれ」の概念はプラトンの『饗宴』が源泉で、映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』でも登場する。同性愛をテーマにした作品で引用されやすいモチーフだ。『君の名前で僕を呼んで』や『アデル、ブルーは熱い色』もそうだけれど、同性愛を描く映画は報われない結末が多い印象がある。本作も冒頭でその予感を漂わせながら進む。でも、すごくポジティブな終わり方だった。「面白いのはこれから」というタイトルは、伊達じゃない。

最後にもう一つ、ずっと頭に残っていること。「かたわれって、一人とは限らないよね」。この映画を見た後、そう思わずにいられなかった。

他の人の見方

批評家からの評価も高く、Rotten Tomatoesでは批評家スコア94%、Metacriticでは75/100を記録している。主にアリス・ウーの脚本・演出と、主演リア・ルイスおよびダニエル・ディーマーの演技が評価された。

日本では映画.comで平均3.9点と広く支持されている。

『nippon.com』の評では「『出口なき』日常でもがく若者たちが放つ、眩しいほどの輝き」と評され、コロナ禍の閉塞感の中でこそ響く作品として位置づけられている※1。

こんな人に

・「シラノ・ド・ベルジュラック」的な”代筆ロマンス”が好きな人
・LGBTQ+をテーマにした映画で、ポジティブな着地を求めている人
・哲学や文学の引用が物語に溶け込んでいる映画が好きな人
・アジア系のキャラクターが主人公として活躍する物語を探している人
・恋愛映画を普段あまり見ない人でも、笑いとほろ苦さのバランスで最後まで楽しみやすい作品

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