視聴方法
Prime Video・U-NEXT・Lemino・WOWOWオンデマンド・J:COM STREAM・TSUTAYA DISCASにて取り扱いあり(2026年6月時点の自動判定情報)。Blu-ray&DVDは2026年2月よりワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントより発売中(4K UHD+Blu-rayセットおよびBlu-ray+DVDセットの2形態)。見放題/レンタルの区分や最新の配信状況は各サービスで直接ご確認ください。
あらすじ
カリフォルニアの移民収容所から移民を救出する極左グループ「フレンチ75」のメンバー、爆発物の専門家ボブ(本名パット・カルフーン)。活動の中でペルフィディアと恋に落ち、娘ウィラをもうけるが、ペルフィディアはやがて2人のもとを去る。それから16年後——落ちぶれた中年男になったボブは、ひとり娘と平穏な暮らしを送っていた。しかし、ウィラの父性をめぐる問題が浮上し、かつての宿敵ロックジョー大佐が再び姿を現す。娘を守るため、次から次へと現れる刺客たちとの戦いに身を投じるボブ。革命家くずれのボブと、地下鉄道を率いる謎のセンセイ(ベニチオ・デル・トロ)、革命家仲間のデアンドラ(レジーナ・ホール)らが入り乱れる、ノンストップの追走劇が幕を開ける。巨大な陰謀と、ひとつの家族の愛が交差する、3時間弱の逃走劇。
見どころ
1. 壮大な社会劇の皮をまとった、シンプルな家族愛
移民問題・白人至上主義・革命運動——と並べると重厚な社会派サスペンスに聞こえる。だが本作の核心は、もっとずっと個人的な場所にある。革命への抵抗という複雑な文脈の中で、PTAが語る物語は驚くほど一本筋の通ったものだ。アクション・ジャンルと人間ドラマ、そしてダークコメディを縫い合わせる手際が、その「難解さ」を解きほぐす。「大きな歴史は個人の欲と愛でできている」という感覚をじわじわと味わわせてくれる、贅沢な構造の映画だ。
2. VistaVisionとジョニー・グリーンウッドが作り出す圧倒的な映像体験
VistaVisionとは1954年にパラマウント・ピクチャーズで開発された映画撮影フォーマット。35mmフィルムをフレーム縦ではなく横方向に走らせることで、1フレームあたりの解像度を大幅に高める。撮影監督マイケル・バウマンによると、PTAのたっての希望でVistaVisionを採用。観客がVistaのフォーマットだけでなくラージフォーマットでも楽しめるように、との考えからだという。さらにPTA作品として初めてIMAX及びDolby Cinemaでの上映も実施され、スクリーンに独特の奥行きと質感をもたらした※1。
音楽はRadioheadのギタリストとしても知られるジョニー・グリーンウッドが担当。サウンドトラックはNonesuchレーベルより2025年9月26日にリリース。ピアノからオンド・マルトノまで多彩な楽器を駆使した音響が、逃走劇の緊張感をぐっと底上げする。
3. ディカプリオ、ショーン・ペン、そして豪華アンサンブルの対比
革命家くずれのボブを演じるレオナルド・ディカプリオと、白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャーズ・クラブ」への入会を目論むロックジョー大佐を演じるショーン・ペン。情けなく滑稽でどこか愛おしいボブと、矛盾と欲望を抱えたロックジョーの対比は、コメディとシリアスのあいだを絶妙に漂う。ベニチオ・デル・トロが演じる謎のセンセイ(空手道場の師匠)が加わることで、物語の温度はさらに複雑に変化する。2人どころか、画面に誰が登場するたびに、この映画の色は変わる。
制作背景
構想20年の悲願と、ディカプリオとの初タッグ
監督・脚本・製作はポール・トーマス・アンダーソン(通称PTA)。本作はアンダーソン監督にとって20年以上も温めてきたプロジェクトであり、「砂漠でのカーチェイスを含むアクション・アドベンチャー映画」というビジョン、トマス・ピンチョンの小説『ヴァインランド』、そして女性革命家を中心人物に据えるというコンセプトから着想を得たという※2。レオナルド・ディカプリオとの共同作業は本作が初となった※1。
原作:トマス・ピンチョン『ヴァインランド』(1990)
原作はアメリカ文学の鬼才トマス・ピンチョンが1990年に発表した長編小説『ヴァインランド』。父と娘の関係および元革命家たちが過去の活動に向き合うというプレミスは原作の筋に基づくが、書籍と映画では舞台となる時代が異なる。邦訳は新潮社「トマス・ピンチョン全小説」シリーズに収録されている(佐藤良明訳)。PTAにとってピンチョン作品の映画化は、2014年の『インヒアレント・ヴァイス』(原作『LAヴァイス』)に続き2作目となる※3。
撮影手法:VistaVisionとロケーション主義
PTAは2019年のトム・ヨークとの短編ミュージカル映画『ANIMA』ですでにVistaVisionフォーマットを使用しており、その仕上がりに高い手応えを感じていた。本作ではその経験を長編に応用。撮影監督は前作から続投のマイケル・バウマンが担当した※1。PTAはサウンドステージを使わず、実際のロケ地で撮影することにこだわった。カリフォルニア州とテキサス州エルパソに撮影場所が置かれ、ロケ地の発掘には数年を要した。プロダクションデザイナーにはオスカー候補・BAFTA受賞者のフロレンシア・マルティンが起用され、クライマックスのカーチェイスシーンはカリフォルニア州ボレゴ・スプリングス近郊の米国道78号線付近で撮影された。※4
編集はアンディ・ユルゲンセンが担当。カリフォルニアを中心に撮影された膨大な素材を、息継ぎを許さないテンポに刈り込んだ。※5
音楽:ジョニー・グリーンウッドとの6度目の共同作業
音楽はPTAとのタッグが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)以来6度目となるジョニー・グリーンウッドが担当。ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラと録音されたサウンドトラックは、ピアノ・ギター・ベース・パーカッション・オンド・マルトノなど多彩な楽器を組み合わせており、CD/デジタル/アナログ盤の3形態でリリースされた※6。
受賞歴:ゴールデングローブ4部門、アカデミー賞6部門
2026年1月11日に開催された第83回ゴールデングローブ賞では、『ワン・バトル・アフター・アナザー』が映画部門の作品賞(ミュージカル/コメディ)、監督賞、脚本賞(いずれもポール・トーマス・アンダーソン)、助演女優賞(テヤナ・テイラー)の計4部門を受賞した。※7
第98回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞(ポール・トーマス・アンダーソン)、助演男優賞(ショーン・ペン)、編集賞(アンディ・ユルゲンセン)、新設のキャスティング賞の計6部門を受賞した。アンダーソン監督にとって、世界三大映画祭すべてで監督賞に輝いてきたキャリアの中で、今回がアカデミー賞初受賞。個人として作品賞・監督賞・脚色賞の3つのオスカー像を手にした。※8
ホームメディアとクレジット
2026年2月にBlu-ray&DVDが発売(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)。4K UHD+Blu-rayセット(7,590円)とBlu-ray+DVDセット(5,390円)の2形態で展開。デジタル販売は2025年12月3日、デジタルレンタルは2026年1月7日に先行開始。日本語吹替版では主演ボブ役を浪川大輔、ペルフィディア役を本田貴子が担当している※9。なお本作のエンドクレジットには、2024年11月27日に逝去したプロデューサー、アダム・ソムナーへの献辞が添えられている。
感想
事前情報を何も入れずに観た。だからこそ、この映画は最高だった。
冒頭から漂うワクワク感。革命軍と政府の話かと思いきや、気づけばまったく別の場所に連れて行かれている。「これはどこに向かうんだ」という戸惑いが、いつのまにか没入感に変わっていく。手応えのある迷子感、とでも言うべき引っ張られ方だった。
移民問題、白人至上主義——確かにそういった社会問題がちりばめられている。でもそれは主題じゃない。この映画が本当に描きたかったのは、ただ娘を愛する父親の話だと感じた。壮大な社会劇の衣を纏いながら、中身はきわめてシンプルな家族愛。その「贅沢なギャップ」が心に刺さる。
逃走劇としての後半が特に面白かった。平和な日常の中に突然緊張感が走り込んでくる感覚、ウィラの表情が徐々に変わっていく様子——そのひとつひとつに目が離せなくなる。「敵の敵も敵」というどこまでも追ってくる構図が、逃走劇に独特の息苦しさを与えていた。
そしてクライマックス近く。今まで散々皮肉的に使われてきた革命の合言葉が、あの場面でも使われる瞬間——言葉の意味が反転する。彼女の複雑な心境がたった一言に凝縮されていた。ああいう瞬間のために映画館がある。
BGMがずっと良かった。臨場感と緊張感を底上げしながら、同時にどこかおしゃれでカッコいい。ジョニー・グリーンウッドの音楽はやはり信頼できる。
「世界は個で構成されている」——大きな出来事のきっかけも本質も、驚くほど個人的なものだった。良くも悪くも個人の力や可能性を感じさせる。だからこそラストに訪れる静かな余韻が、あれほど心地よいのかもしれない。3時間弱とは思えないほどのめり込んだ。
他の人の見方
第98回アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む6部門を受賞したことで、「PTAのキャリア最高傑作」との評価が定着しつつある。批評面でも、批評集積サイトRotten Tomatoesでは414人の批評家のレビューのうち94%が肯定的な評価を下しており、Metacriticは63人の評価に基づき100点満点中95点という「普遍的な称賛」のスコアを付けている。※1
PTAの演出への評価が高い一方で、映像の質感、サウンドトラック、そしてVistaVisionの革新的な活用についても多くの称賛が向けられている。劇場のスクリーンで体験した者ほど、そのフォーマットの違いに言及する傾向がある。一方で、物語のペースや展開の不均一さ、キャラクター描写の不足を指摘する声もあり、一点の曇りもない評価ではないことも付記しておく。原作ピンチョン文学との比較では、難解と思われがちな原作を映画として親しみやすく昇華しているとの見方も根強い※3。
こんな人に
・ポール・トーマス・アンダーソン作品(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『インヒアレント・ヴァイス』など)をこれまで追ってきたファン
・社会問題を扱いながらも最後は人間の温かさに着地する映画が好きな人
・VistaVisionやIMAXなど、映像フォーマットへのこだわりを映画体験として楽しみたい人
・レオナルド・ディカプリオが「情けない中年男」を全力で演じる姿を見たい人
・アクション映画はあまり得意じゃないけど逃走劇や人間ドラマなら楽しめそう、という映画不慣れな人にも——ド派手な爆発より父と娘の感情が軸なので、意外と入りやすい作品です
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