視聴方法
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あらすじ
漢方薬店で働きながら一人息子のトジュン(ウォンビン)を育て上げた母(キム・ヘジャ)。二人は貧しいながらも、母ひとり子ひとりで懸命に生きてきた。ある朝、町で女子高生の遺体が発見され、トジュンが殺人容疑者として連行される。証拠も弁護士もないまま追い詰められた母は、息子の無実を信じて自ら真相を追いはじめる。しかし捜査を進めるほど、真実は母の想像とは異なる方向へと動いていく。
見どころ
キム・ヘジャの圧倒的な肉体演技
本作以前、キム・ヘジャは韓国テレビで温かく慈愛あふれる母親像を演じることで評価を築いてきた。ポン・ジュノはそのイメージを逆手に取り、名前すら与えられない「母」という役に彼女をあてた。息子を守ろうとする必死さと、何かを隠すような翳りの両方を同時に体に宿す演技は、ただそこにいるだけで画面を支配する。
ポン・ジュノと撮影監督ホン・グンピョは、映画の冒頭ショットで母を純粋に肉体の動きだけで紹介する。広大な野原をカメラに向かってゆっくりと歩いてくる後ろ姿。そこへ音楽が流れはじめると、母はゆっくりと踊りはじめる。そのダンスが冒頭と結末を結ぶ構造として機能していることは、鑑賞後にあらためて輪郭を変えてくる。
撮影中、キム・ヘジャ本人がポン監督に「あなたが思うように演じてくださいと言われるのが最もいや。私を本当に崖っぷちに追いやるほどの演出をしてほしい。どんどん痛めつけてもいいから」と要求したという。そしてポン・ジュノはその通りにした、と監督自身が明かしている。
ポン・ジュノの「共犯者」構造
表向きはミステリーでありながら、観客は気づかぬうちに主人公の視点と論理に取り込まれていく。どこを「真実」と信じるかを自分で選んでいたようでいて、実は演出によって誘導されていた——その構造の精巧さが、鑑賞後にじわじわと輪郭を変えてくる。「観客までも引きずり込み共犯関係に仕立て上げる構造に凄みすら覚える」という評価がある※1。
兵役復帰後のウォンビン、新たな役柄
ウォンビンにとって本作は5年ぶりの映画出演作にあたる。従来のイメージとは異なる、知的障害を持つ青年を演じることで、スクリーンに別の層を生みだした。劇中、トジュンが5歳の時の思い出を母親に語る場面では、キム・ヘジャを相手に「一歩も引かない演技力をもって、その緊張感を維持してくれた」とポン・ジュノ監督は評価している※2。
制作背景
本作は、『殺人の追憶』『グエムル/漢江の怪物』のポン・ジュノ監督による3年ぶりの長編新作として製作された。脚本はポン・ジュノとパク・ウンギョの共同執筆によるオリジナル作品で、ポン・ジュノはキム・ヘジャを主役に想定して脚本を書いた。
キャスティングの核となったのは、キム・ヘジャの存在だ。キム・ヘジャの映画主演は1999年公開の『マヨネーズ』までさかのぼる。ポン監督は「私が生まれる前から活躍している大女優です。彼女の息子さんよりも若い私が、『どうか一緒に映画を作ってください』とお願いする姿をかわいいと思ってくれたのではないでしょうか」と語っている。また、キム・ヘジャは脚本を読んで「これまでいくつもの母親を演じてきたけれど、この母親はまったく違う」と興奮したという※3。劇中で彼女が演じる母親には名前が与えられていない。「母」という記号であり続けることが、この役の本質でもある。
ウォンビンの起用について、ポン・ジュノ監督は「TVで見ていた彼とは随分印象が違う。意外性、そしてある種の豊かさを感じた。その時点で、心の中で彼と仕事をしようと決意した」と語っている※2。ウォンビン自身は「5年というブランクがあるので、今回の緊張感は相当なものでした。キム・ヘジャ先生やポン・ジュノ監督に本当に助けていただいた」と話している※4。
撮影面では、主要撮影は2008年夏に開始し、約5か月にわたって行われた。製作陣は韓国各地の農村・都市部でのロケ撮影を多用し、リアリズムを追求した。主要ロケ地には、忠清北道・堤川市の旧市街と廃工場(捜査・犯罪関連シーンの長期撮影地)、全羅南道の農村地帯(冒頭などの場面)などが含まれる。撮影監督は『スノーピアサー』『パラサイト 半地下の家族』も手がけたホン・グンピョが担当している。
韓国公開後10日間で観客動員200万人を突破する大ヒットを記録。第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品されたほか、第82回米国アカデミー賞外国語映画賞部門の韓国代表に選出された。国内では第30回青龍賞最優秀作品賞、第46回大鐘賞最優秀助演男優賞(チン・グ)を受賞※1。日本でも第83回キネマ旬報ベスト・テン第2位、第22回日刊スポーツ映画大賞・外国作品賞を受賞している。
国内Blu-rayには、約90分のメイキング映像、ポン・ジュノ監督によるシーン解説(約31分)、監督×キム・ヘジャ対談(約10分)、監督・キャストインタビュー(約14分)など充実した特典映像が収録されている※5。
感想
枯れ草の原っぱで、母がひとり踊っている。それがこの映画の始まりだ。
母が息子の無実を証明しようとする話だと思っていた。でも観ているうちに、それは少しずつ違う問いへとすり替わっていく。母の愛は本物か、という問いではない。母の愛が本物であることが、むしろ問題の核心に近いのだと気づいたとき、映画のトーンがすとんと変わる感覚があります。
キム・ヘジャという俳優の凄みは、感情を「演じている」という痕跡がほとんど見えないところにあった。追い詰められているのか、何かを隠しているのか、あるいはその両方なのか——観ている側の判断がずっと宙吊りになっている。それでいて画面から目を離せない。知的障害を持つ息子と二人きりで生きてきた女性の、累積した時間みたいなものが体に宿っている。名前を与えられない「母」という役を、記号ではなく人間として成立させている。
ウォンビンについては、事前の予想よりずっと核心に近いところにいた。従来のイメージとの落差を計算に入れてのキャスティングだとしても、それを超えた何かがある。ポン・ジュノ監督が「心の中で決意した」と語った初対面の直感が、スクリーンからも伝わってくるような気がします。
ポン・ジュノの演出で際立っているのは、観客を主人公の論理の内側に引き込む構造の精巧さだ。母は息子を信じている。その信念は純粋に見える。観ているこちらもしばらくはその視点を疑わない。しかし、ふとしたショットの切り方や、何気なく置かれた小道具の位置が、後になって全く別の意味を持ちはじめる。「まんまと思い込まされてしまった」という反応が観客から多く寄せられているのは、この誘導の精度が高いからだと思う。誘導されていることに気づくのが、映画が終わった後というのが巧みです。
冒頭と結末に置かれたダンスのシーンのことを、しばらく考えていました。あのシーンが何を意味するのか、観るタイミングや状況によって受け取り方が変わりそうで、一度だけでは消化しきれない。ポン・ジュノはしばしば「ショットの粒立ちが素晴らしい」と評されるが、このダンスシーンはその最たる例で、説明のない映像がそのまま情動として届いてくる。
母親というテーマは、どうしても普遍的になりすぎるか、逆に個別すぎて外側からは届かないか、どちらかに傾きがちです。本作がその両方を回避できているのは、「母の愛」を美化しない視線があるからだと思う。献身の裏側にある、もっと複雑なものを正面から見ている。それが怖く、同時に映画として誠実でもある。
韓国映画がここまで世界的に評価される地盤を作った作品のひとつとして、本作は今もって参照されつづけている。ポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』でパルムドールを獲得したとき、その道のりを遡るとこの映画がある。一本の映画として強度があるというだけでなく、作家としての一貫した視線がここにも刻まれています。
他の人の見方
映画.comのプロ批評では「濃密なミステリーであると同時にどこか観客までも引きずり込み共犯関係に仕立て上げる構造に凄みすら覚える怪作」という評価がある※1。
シネマトゥデイは「カンヌ国際映画祭でも絶賛されたポン・ジュノ監督の卓越した演出と、兵役後の復帰第1作となるウォンビンの熱演に注目だ」と紹介している※6。
Rotten Tomatoesでは120件のレビューをもとに支持率96%を記録し、MOVIE WALKER PRESSでは評価3.9を記録している※7。
こんな人に
・ミステリーだと思って観はじめたら、違う映画として終わる体験がしたい人
・「母性」という言葉が美しいだけのものだと思えなくなってきた人
・キム・ヘジャ、ウォンビンという俳優の仕事を改めて確認したい人
・ポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』に至る前に何を作っていたかを知りたい人
・韓国映画をあまり観たことがないが、まず一本観てみたいという人にも、ジャンル映画として入りやすい構造になっているのでおすすめできる
関連商品
💿 Blu-ray / DVD
🎬 同監督の関連作
出典
- ※1 映画.com
- ※2 映画.com インタビュー
- ※3 映画.com 特集
- ※4 シネマトゥデイ インタビュー
- ※5 TCエンタテインメント
- ※6 シネマトゥデイ
- ※7 MOVIE WALKER PRESS


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