視聴方法
2003年に製作された本作は、映画祭やイベントなどで数回上映されたのみで、2024年に21年の時を経てオリジナルの35mmフィルムで初めて劇場公開された。サブスク配信での取り扱いは限定的で(2026年6月時点)、物理メディアの宅配レンタルが現実的な視聴ルートとなる。最新の在庫状況は各サービスのページで直接確認してほしい。
あらすじ
ヤクザの構成員・南は、最近奇妙な言動をするようになった兄貴分の尾崎を名古屋の処分場へ連れていくよう命じられる。しかし南は道中でうっかり尾崎を殺害してしまい、その上、目を離した隙に遺体は消え去り、南の周りでは不可解なことが起こり始める。ヤクザ映画の顔をしているが、どこかへ向かって転がり落ちていくような、奇妙な旅の話だ。
見どころ
1. ホラー演出×コメディの引力
笑っていいのかどうか、最初は本当に迷う。冒頭からすでに空気がおかしい。ホラーそのものの画作りで、起きていることはシュールの極み。そのギャップが何とも言えない引力を生んでいて、笑えば笑うほど怖い、怖いほど笑える、という不思議な体験が続く。本作のキャッチコピーは「もしもデビッド・リンチが任侠ものを撮ったら」というものだが、それは言い得て妙で、かつ半分しか言い表せていない。
2. 豪華すぎる「三池組」の集結
哀川翔、吉野きみ佳、火野正平、冨田恵子、間寛平、加藤雅也、小沢仁志、遠藤憲一、小沢和義、山口祥行、長門裕之、石橋蓮司、丹波哲郎——ベテランから個性派まで揃ったキャストが、一人ひとりのシーンを塗りつぶしていく。誰が出てきても目が離せない。VシネマとJ映画界の精鋭が、まるで示し合わせたように「三池崇史の世界」に全員乗っかっている。
3. ビデオ作品なのに、カンヌへ——そしてぴあへ
劇場未公開のオリジナルビデオ作品ながら第56回カンヌ国際映画祭・監督週間に出品された伝説的作品。さらに2003年の第25回ぴあフィルムフェスティバルのオープニング作品として上映され、当時チケットは即完売となった。Vシネマが国際映画祭とフィルムフェスのオープニングを同時に飾るという、異例中の異例の経歴を持つ。その後21年の時を経て、2024年に初めて劇場公開を果たした。
制作背景
愛知県名古屋市のアンダーグラウンド系の実業家が出資して設立した「オフィスアスク」がスポンサーとなり、映画俳優・曽根晴美の意向で本作は制作された。
当初、曽根晴美の思い入れが強かった実子の曽根悠多を主役とした、王道極道ものの作品を目指していたが、三池崇史は外国向けに受けの良い「きわもの」に仕立てることでカンヌ映画祭を視野に入れ、脚本家に『殺し屋1』でもタッグを組んだ佐藤佐吉を起用した。
今村昌平監督作『楢山節考』に着想を得て、兄貴分をヤクザの処分場に連れていく男の道程を描くという骨格が与えられたうえで、そこに三池と佐藤の不条理フィルターがかけられていった。撮影を田中一成、照明を吉角荘介、美術を石毛朗、編集を島村泰司、音楽を遠藤浩二が担当している。
完成した作品は第56回カンヌ国際映画祭・監督週間(Quinzaine des Réalisateurs)に出品され、Vシネマとしては異例の選出として話題を呼んだ。国内でも第25回ぴあフィルムフェスティバルのオープニングを飾り、当時チケットは即完売となった。しかし日本国内では劇場公開の機会がないまま、DVDには三池崇史&佐藤佐吉によるオーディオコメンタリーやメイキング映像(19分)が収録された形でリリースされるに留まった。
その状況が変わったのは2024年。製作から21年の時を経て、オリジナルの35mmフィルムで初めて劇場公開された。オリジナルの35mmプリントはほとんど映写機を通っておらず、劇場の大スクリーンで『牛頭』の底知れぬ妖しさが体感できる上映となった。
2024年の劇場公開にあたり、脚本の佐藤佐吉は「まさに21年目の奇跡!」「カンヌに招待され世界中で上映されながら日本ではVシネマでのリリースのみ。それは当初からの決まり事ではあったもののいつの日か劇場でとの願いがようやく叶いました」「自画自賛ではありますがまぎれもなく佐藤佐吉脚本作品としての最高傑作」とコメントしている※1。
感想
「これすごいな」——観終わって最初に出た言葉がそれだった。
ヤクザものだと思って観はじめたら、気づいたら全然違う場所にいた。不思議な国に迷い込んだ男の話、というのが正直な感想です。久々に声に出して笑いました。
冒頭からすでにおかしい。テレビに何かが映っていて、それがもう不気味。ヤクザ犬、ヤクザカー——この時点ですでに面白い。笑っていい映画かどうか迷っていたけれど、喫茶店のシーンでコメディだとはっきり理解しました。
ジメジメとした旅館、色素の薄い男、女将と弟の掛け合い。シュールで、それでいてホラー演出のBGMが鳴り続けている。このギャップがたまらない。BGMってこんなに重要なのか、と改めて思い知った。画面に映っているものの組み合わせが、すでに論理を超えている。説明しようとするたびに、言葉が追いつかなくなる感じ。
お気に入りのシーンは米屋の外国人。会話しているかと思ったら台本を読んでいるという、とことんメタな演出。笑いながらも、どこかぞっとする。
哀川翔は本当に最高でした。ラストの表情、あれはずるい。
「デヴィッド・リンチ(『ツイン・ピークス』『マルホランド・ドライブ』で知られるアメリカの映像作家)の世界を日本で表現しようとしたら、つげ義春(『ねじ式』などで知られる日本の漫画家)になる」——観ながらそう感じた。シュルレアリスムというフレームで見ると、すべてが腑に落ちる気がした。エンディング曲まで含めて、最初から最後まで馬鹿で、美しかった。
他の人の見方
「三池崇史にしか撮れない映画」「カンヌ出品も納得のカルト的怪作」という声がある一方、その逸脱した内容から好みが大きく分かれる作品でもある。三池崇史映画の中でも「カルト中の幻のカルト」と位置づけられてきた本作が、2024年の劇場初公開によって、ようやく広い観客の目に触れることになった。
こんな人に
・三池崇史作品をひとつも観たことがない人が「とりあえず1本」を選ぶなら
・デヴィッド・リンチやつげ義春的な、夢と現実が混ざった世界観が好きな人
・ホラー演出で笑わされるという、ジャンルの境界線を踏み越えた体験がしたい人
・哀川翔の、普通じゃない哀川翔が見たい人
・ヤクザ映画やホラーに馴染みがなくても、「なんだこれ」という体験としてなら絶対に楽しめる
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