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『KIDS/キッズ』考察・感想|タイトルが呪い言葉に聞こえてくる(ネタバレなし)

『KIDS/キッズ』考察・感想|タイトルが呪い言葉に聞こえてくる(ネタバレなし)

監督 ラリー・クラーク

脚本 ハーモニー・コリン

主演 レオ・フィッツパトリック、ジャスティン・ピアース、クロエ・セヴィニー

製作年 1995年

上映時間 91分

ジャンル ドラマ


※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


目次

視聴方法

2026年7月時点で主要VODサービスでの取り扱いは確認できていない。配信状況は変動するため、各サービスで最新情報を要確認。2025年10月には新宿シネマカリテほかで30年ぶりの全国リバイバル上映が行われており、今後の上映・配信機会に注目したい。

あらすじ

1990年代のニューヨーク。学校にも家庭にも縛られることなく、街を自由に漂うティーンエイジャーたちのある一日が描かれる。セックス、ドラッグ、スケートボード——自制心とは無縁の日常を繰り返す彼らの姿は、ドキュメンタリーを思わせるリアルな筆致で映し出される。同時進行する複数の若者の軌跡は、じわりと不穏な方向へ重なり合っていく。

見どころ

素人同然のキャストが生む、嘘のないリアリティ

主要キャストの多くが演技経験のない若者たちで構成されており、その素朴さがかえってドキュメンタリー的な生々しさを生み出している。レオ・フィッツパトリックは、ニューヨークでスケートボードをしながらトリックを決めようともがく姿を見たクラーク監督がスカウトした人物だ。クロエ・セヴィニーも演技未経験のまま本作に臨み、後にストリートキッズのアイコン的存在となった女優へと成長した。体温がそのまま画面から伝わってくるような、この種のリアリティは、プロの俳優を揃えた現場では生まれにくい。

だらけた時間を成立させるサウンド

音楽はダイナソーJr.のベーシストであり、セバドーのボーカル&ギタリストでもあるルー・バーロウが担当し、ダニエル・ジョンストンらも参加したサウンドトラックは映画とともに大ヒットした。目的もなく街を漂う映像に、Deluxx Folk Implosionのサウンドが重なる瞬間、奇妙なことに「かっこいい」と感じてしまう引力がある。だらだらとした時間が音楽によってどこか様になって見えてしまう——その奇妙な磁場が、本作を単なる問題作以上のものにしている。

写真家の眼で切り取る、90年代NYの路上

撮影当時すでに50歳前後だったラリー・クラークが若いスケーターたちを演出できたのは、被写体のコミュニティに完全に没入するという、彼ならではの創作スタイルにある。演出というより観察に近い距離感でとらえるカメラは、若者たちの危うさと無防備さを同時に映し出す。街角の空気、光の質感、少年少女たちの仕草——それらが一枚の写真のように記憶に残る。写真家クラークでなければ生まれなかった質感が、全編を支配している。

制作背景

写真集『タルサ』などティーンエイジャーのリアルな姿を撮り続けてきた写真家ラリー・クラークが、1995年に発表した映画監督デビュー作。ラリー・クラークは「誰も作らなかった映画を作りたい」という強い思いで、ティーンエイジャーの24時間をリアルに描き上げた。

ハーモニー・コリンとクラークの出会いはワシントンスクエアパークで、クラークのカメラについて会話を交わしたことがきっかけだった。コリンは高校時代に自ら撮ったフィルムのコピーを常に携えており、そのビデオテープをクラークに手渡した。「テープに電話番号を書いておいたら、気に入ったから会いたいと連絡が来た。脚本が書けるか試してほしいと言われた」とコリンは振り返っている。コリンが脚本を書いたのは1993年、19歳のときのことだと伝えられている。

撮影は『マイ・プライベート・アイダホ』の名カメラマン、エリック・アラン・エドワーズが務め、そのショッキングな映像は「フィクションか現実か」という論争にまで発展した。製作総指揮にはガス・ヴァン・サントが名を連ねている。

キャスティングは徹底して路上から行われた。ジャスティン・ピアースはワシントンスクエアパークでスケートボードをしているところをラリー・クラークに発掘され、本作へのキャスティングに至った。一方、ハーモニー・コリンはプロダクションが始まる前にニューヨークでクロエ・セヴィニーと知り合い、彼女を本作に招いた。

本作は1995年5月17日にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された。日本では1996年7月に初公開(配給:松竹富士)。MPAAからNC-17レイティングを受けたが、本作はレイティングなしで公開された。

受賞歴では、第11回インディペンデント・スピリット賞において、ジャスティン・ピアースが最優秀新人賞(Best Debut Performance)を、ラリー・クラークが最優秀新人監督賞(Best First Feature)をそれぞれ受賞している。ハーモニー・コリンの脚本も同賞にノミネートされた。

写真集『タルサ』に影響を受けたマーティン・スコセッシ、ガス・ヴァン・サント、フランシス・F・コッポラら多くの映画監督にも影響を与えた写真家の監督デビュー作として、長く語り継がれている作品だ。2025年の全国リバイバル上映では、30年を経てもその衝撃が色あせていないことが再確認された※1。

感想

キャスティングの段階で、もうある程度完成してしまっている——そういう映画があります。本作はそのタイプだと思いました。

セックスして、万引きして、くっちゃべって、クスリやって、スケボーしに行って、喧嘩して、またセックスして。それだけの映画です。因果関係も教訓も、ドラマ的な起伏らしい起伏もない。何も考えていない子供たちが自制心のないまま街を漂い続ける様子を、ありのまま映し出している。それだけなのに、92分ずっと画面から目が離せなかった。

理由のひとつは、間違いなく音楽です。だらだらと続く映像がDeluxx Folk Implosionのサウンドと重なる瞬間、奇妙なことに「かっこいい」と感じてしまう。特に冒頭の「Daddy Never Understood」——あの曲が鳴り始めた瞬間に、この映画の引力の正体を直感した。無目的な若者たちの時間が、音楽によって詩のように見えてしまう。それが心地よくもあり、どこか不穏でもある。

キャスパー役のジャスティン・ピアースの存在感も強烈でした。あぶなっかしくて、だけど妙にスタイルがあって、目を離せない。ワシントンスクエアパークでスカウトされた素人が、これだけ画面を支配できるという事実が、この映画のリアリティの根拠になっている。演じているのではなく、ただそこにいる。その違いは、観ていれば誰にでもわかる。

観終わってから、彼がその後どうなったかを調べました。ジャスティン・ピアースは25歳の若さで自ら命を絶っている。ハロルド・ハンター(本作にも出演している)は2006年にオーバードーズで亡くなった。映画の中で「何も考えていない」ように見えた彼らが、実際にあの時代のあの場所で生きていた人間だったという事実が、遅れて重くのしかかってくる。これはドキュメンタリーではなく劇映画だけれど、キャストの実人生と映画の内容の境界線が、本作ではことさらに曖昧に溶け合っている。

タイトルの「KIDS」という言葉についても、観た後では違った響きを帯びてきます。「子供たち」という意味のはずのその言葉が、「DRUG」や「AIDS」と同列の、どこか禁じられたニュアンスを帯びた言葉のように感じられてくる。何の変哲もない四文字が、映画を通過することで別の何かに変容する——その感覚は、この映画が単なるショッキングな問題作ではなく、確かな作家の意図を持った一本であることの証拠だと思う。

ラリー・クラークが写真家として長年ティーンエイジャーを撮り続けてきた人物であることは、観ているあいだに体感として伝わってくる。カメラが彼らを「演出」しているのではなく、「観察」している。その距離感の違いが、全編を通じて画面の質を決定づけている。90年代のNYの路上の光と空気が、スナップショットのように次々と目に焼きつく。それはおそらく、監督が写真家でなければ生まれなかった質感です。

かっこいいと感じながら、ぞっとする。その両方が同時に成立している映画でした。

他の人の見方

「監督処女作・有名俳優なし・低予算・17歳以下鑑賞禁止というハンデばかりの状況にもかかわらず、興行成績も批評家受けも抜群に良い結果を残した」という評価がある※2。ニューヨーク・タイムズのベン・デトリックはこの映画を「スケートボードと亜酸化窒素とヒップホップを持ち込んだ『蠅の王』」と評し、「雷のような道徳的断罪はなく、あるのは観察的な距離感だけだ」と記した。全米公開当時は賛否両論を巻き起こした問題作として受け止められた一方、カルト的人気を保ち続けており、マーティン・スコセッシ、ガス・ヴァン・サント、フランシス・F・コッポラら多くの映画監督に影響を与えた写真家の監督デビュー作として、長く語り継がれている※3。2025年の全国リバイバル上映では、30年を経てもその衝撃が色あせていないことが再確認された。

こんな人に

・演出過多の映画に食傷気味で、生々しいリアリティのある映像を求めている人
・90年代のニューヨークのストリートカルチャーに興味がある人
・ハーモニー・コリンやガス・ヴァン・サントなど、インディペンデント系の作家映画が好きな人
・音楽と映像の組み合わせに敏感で、サウンドトラックから映画に入るタイプの人
・派手なストーリーがなくても映画として成立しうることを体験してみたい、映画初心者の人

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