視聴方法
Amazon Prime Videoにて見放題独占配信中(2026年6月6日〜、プライム会員特典)。
あらすじ
任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、抗争で父を殺された後、その場に居合わせた歌舞伎界のスター・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、芸の道へと進む。半二郎の息子で名門の御曹司・俊介(横浜流星)とは当初ぎくしゃくするが、厳しい稽古を通じて親友でありライバルとなっていく。女形として頭角を現す2人。だが、そこには血筋と世襲、そして人間国宝という頂点をめぐる果てしない道が待ち受けていた。
芥川賞作家・吉田修一が4年の歳月をかけて書き上げた上下巻800ページを超える大作を原作に、主人公・立花喜久雄の50年を描く骨太な人間ドラマ。上映時間175分。
見どころ
約1年半の稽古が生んだ、本気の歌舞伎
吉沢亮と横浜流星は、1年半の歌舞伎稽古を経て本作に臨んだ。その努力の痕跡はスクリーンにはっきりと刻まれており、2人の動きや所作には確かな歌舞伎の気配が宿っている。これほどの準備期間を経て舞台に立つ俳優2人の真剣勝負は、それだけで見応え十分だ。
歌舞伎指導には中村鴈治郎が就き、自らも劇中の歌舞伎役者役として出演している。本職の力が現場に持ち込まれた密度は、スクリーン越しにも伝わってくる。
田中泯が体現する「異質」という名の本物
田中泯(舞踏家・俳優として独自の存在感を放つ)が演じる人間国宝・小野川万菊の存在感は別格だ。劇中で彼が放つ言葉と、その佇まいだけが持つ圧倒的な異質さは、映画の中でひときわ際立つ瞬間をつくり出している。本物とは何か、という問いが静かに浮かびあがってくる。
「曽根崎心中」——フィクションの中の本気
劇中に登場する演目「曽根崎心中」の場面は、映画としての見せ場のひとつ。吉沢亮の表情がとりわけ印象的で、フィクションとわかっていながらも引き込まれる瞬間がある。歌舞伎の演目が映画のドラマと重なり合う、この作品ならではの構造が堪能できる。
制作背景
原作・脚本・監督
原作は、吉田修一が自身の歌舞伎黒衣としての経験を血肉にして書き上げた渾身の作品。3年間にわたり歌舞伎の黒衣をまとい、楽屋に入った経験をもとに執筆された。2019年に朝日新聞出版から上下巻で刊行。
李相日監督にとって本作は、『悪人』(2010年)、『怒り』(2016年)に続く吉田修一原作の3作目の映画化となる。脚本は奥寺佐渡子が担当。
撮影・スタッフ
撮影は『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得したソフィアン・エル・ファニが担当。美術は種田陽平、主題歌は原摩利彦 feat. 井口理(King Gnu)による「Luminance」。作詞には坂本美雨が名を連ねる。
キャスティング
出演は吉沢亮、横浜流星のほか、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、永瀬正敏、宮澤エマ、田中泯、渡辺謙ら。歌舞伎映画として異例の豪華布陣が揃った。
カンヌ上映と反響
第78回カンヌ国際映画祭監督週間部門に選出され、カンヌ国際映画祭監督週間で公式上映され、6分間にわたる割れんばかりのスタンディングオベーションに包まれた。※1
興行収入と受賞歴
2025年6月6日に公開され、2026年3月8日までに観客動員数が1439万人、興行収入が203億円を突破。22年間破られることのなかった「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(2003年、173億5000万円)の記録を塗り替え、歴代興行収入ランキングで邦画実写1位を達成した。※2
第49回日本アカデミー賞の授賞式では最優秀作品賞をはじめ、最多10部門で最優秀賞に輝いた。さらに、第98回米アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。※3主題歌「Luminance」は日本アカデミー賞主題歌賞も受賞している。※4
感想
すごい映画ではある。でも、面白くはなかった。
正直に言う。
タイトルが重すぎた、というのが率直な印象でした。「国宝」と銘打たれると、どうしても人知を超えた何かを期待してしまう。だが映画を観ながら感じ続けたのは、「これは普通のドラマだ」という感覚でした。
歌舞伎について、少し考えてみたことがある。歌舞伎の舞台において、役者は感情を露骨に表さない。真っ白な顔に施されたミニマルな化粧、そこから僅かに滲み出るものこそが技術の証明だ。これは歌舞伎に限らず、日本文化に通底するミニマリズムの精神——禅の思想、利休の茶室、俳句——と同じ根を持っている。無から無限を生み出す、制約の中から大きなものを掴み取るという美学。
その観点で観ると、本作は歌舞伎の繊細さとは逆の方向に走っていると感じました。苦悩、悲しみ、怒り——その感情がアップで何度も捉えられる。映画として感情を伝えるためには必要な手法かもしれない。でも、それは歌舞伎の本質とは少しズレている。わかりやすさが、歌舞伎の静けさをどこか矮小化してしまっているように思えてならなかった。
吉沢亮と横浜流星の演技は見事です。1年半の稽古の痕跡も伝わってくる。ただ、「ものすごく練習したのだな」と感じ取れてしまう、その瞬間に何かが崩れる。本物の歌舞伎を目の当たりにしたときの、「ただただすごいものを見た」という感覚——あの感触にはたどり着けませんでした。
そのなかで唯一、圧倒的な異質さを放っていたのが田中泯さんでした。彼が画面に現れる瞬間だけ、空気が変わった。それが何よりも雄弁に、「本物の異質さ」とは何かを語っていたと思います。
歌舞伎をフィクション映画で表現することには、根本的な無理がある。そう感じました。でも、その無理に全力で挑んだ監督と役者たちの熱量は確かに伝わってきた。矛盾した感情が残る175分でした。
本物の歌舞伎とは何か、という問いに興味がある人なら、比較対象としても十分に観る価値がある作品です。
他の人の見方
2026年3月時点で観客動員数1439万人、興行収入203億円を突破し、邦画実写の歴代No.1に輝いたという事実が、この映画への支持の大きさをそのまま示している。技術・演技・スケール感を評価する声が目立つ一方、175分という長尺をどう受け取るかは観る側によって分かれている。『国宝』は日本代表としてアカデミー賞国際長編映画賞部門への出品も行われた。国内の映画賞レースを席巻しつつ、海外への発信という側面でも存在感を示した作品だった。
こんな人に
・吉沢亮・横浜流星の本気の演技を大画面級の迫力で体感したい人
・李相日監督作品(『悪人』『怒り』『流浪の月』)が好きな人
・歌舞伎や日本の伝統芸能に関心があり、その映画的表現を考えてみたい人
・「本物とは何か」「才能と努力の差はどこにあるか」というテーマに惹かれる人
・日本映画をあまり観たことがない人でも、人間ドラマとして入りやすい構造になっているため、まず1本試してみたいという方にも向いている
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