視聴方法
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あらすじ
ロサンゼルス郊外。曇り空の下、一見まったく無関係な9人の男女の24時間が交錯する群像劇。死の床にいる元テレビプロデューサー、疎遠の娘を持つクイズ番組司会者、性の伝道師として名を馳せる男、かつての天才少年、今まさにプレッシャーの中にいる少年、不器用な警察官——それぞれが孤独と罪と愛への渇望を抱えながら夜を生きる。そしてその夜、誰もが予想しなかった不思議な出来事が彼らの前に降り注ぐ。
見どころ
1. 9つの人生が生み出す「化学反応」
主要な登場人物だけで9人。それぞれのストーリーが並行して進み、互いに切り替わりながら絡み合っていく。独立した話として観ていたはずが、いつの間にか一つの大きなうねりになっている——この構成の妙は、187分という長尺をまったく飽きさせない。どのシーンを切り取っても完結しているのに、別の話と隣り合わせになることで生まれる感情の振れ幅が尋常ではない。
2. エイミー・マンの音楽が映画を呼吸させる
本作はシンガーソングライター、エイミー・マンの楽曲からインスパイアされて生まれた。主題歌・挿入歌も彼女が担当し、エンディング曲「Save Me」は第72回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされている。同曲はグラミー賞の最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス部門にもノミネートされた。音楽が映画に後付けされるのではなく、最初から物語の骨格に溶け込んでいる。曲が流れるたびに、登場人物の内側がより深く見えてくるような感覚がある。
3. キャスト全員が「その人」にしか見えない
トム・クルーズ(フランク/性の伝道師)、ジェイソン・ロバーズ(アール/死の床にある元TVプロデューサー)、ジュリアン・ムーア(リンダ/アールの妻)、フィリップ・シーモア・ホフマン(フィル/在宅看護師)、ウィリアム・H・メイシー(ドニー/元天才クイズ少年)——豪華の一言で済ませてしまうのがもったいないほど、全員が繊細な体温を持つ。誰一人、「演じている」ように見えない。
制作背景
ポール・トーマス・アンダーソン(『ブギーナイツ』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で知られるアメリカの鬼才)が監督・脚本を手がけた、1999年製作の作品。日本では2000年2月26日に日本ヘラルド映画の配給で劇場公開された。上映時間187分はPTA作品の中で最長となる。
脚本の誕生:エイミー・マンの音楽から
シンガーソングライターのエイミー・マンに惚れ込んだアンダーソンは、彼女の音楽に触発される形で脚本を書き始め、それが1999年のドラマ『マグノリア』へと結実した。脚本の執筆は主にウィリアム・H・メイシーのヴァーモント州のキャビンで行われたと伝わる。ある日、アンダーソンはヘビを目撃して屋内に退散し、そこから約2週間で脚本の大部分を書き上げたとも言われている。
エイミー・マンの楽曲「Deathly」の歌詞は、そのまま映画の台詞として転用された。劇中でクローディア(メローラ・ウォルターズ)が口にする「Now that I’ve met you, would you object to never seeing me again?」は、「Deathly」の一節から引いたセリフだ。
予算と撮影
製作予算は3700万ドルで、前作『ブギーナイツ』と『ハードエイト』の合計の2倍以上にあたる。クランクインは1999年1月12日で、撮影は同年6月24日まで続いた。撮影監督はロバート・エルスウィット、劇伴はジョン・ブライオンが担当している※1。プロダクション・デザインでは、マグノリアの花が持つグリーン・ブラウン・オフホワイトの色調を画面全体に反映させることが意識された。また、ほぼすべてのロケーションに少なくとも1点のマグノリアの絵画や写真が配置されており、視覚的なモチーフとして機能している。
キャスティング秘話:トム・クルーズとの出会い
『アイズ ワイド シャット』の撮影でロンドンに滞在していたトム・クルーズはある夜、『ブギーナイツ』を鑑賞してアンダーソンに賛辞の電話をかけた。当時ロンドンにいたアンダーソンはクルーズの招待を受け、撮影セットを訪れた。そこでアンダーソンはクルーズにフランク・T・J・マッキー役を直接オファーした。クルーズは当初、自身のスター・イメージとはかけ離れたキャラクターへの出演に乗り気ではなかった。
アール・パートリッジ役には当初、別のベテラン俳優への打診が行われたが実現せず、ジェイソン・ロバーズが起用された。ロバーズはこの映画の公開から1年も経たないうちに肺がんで亡くなっており、『マグノリア』が遺作となった。
フィリップ・ベイカー・ホールによれば、アール・パートリッジというキャラクターはアンダーソン自身の父、アーニー・アンダーソンをモデルにしており、フランクがアールの死の床を訪れるシーンは、監督が父の末期がんを看取った実体験に基づいているという。※2
「Wise Up」シーンの撮影
エイミー・マンの「Wise Up」をキャスト全員が口ずさむ場面の撮影では、出演者の一部がシーンの特異さに尻込みした。アンダーソンはジュリアン・ムーアに先陣を切ってもらい、彼女のペースに残りのキャストが続く形で撮影を進めた。
受賞歴
第50回ベルリン国際映画祭で最高賞となる金熊賞を受賞。第57回ゴールデングローブ賞ではトム・クルーズが助演男優賞を受賞し、第72回アカデミー賞では助演男優賞(トム・クルーズ)・脚本賞・歌曲賞の3部門にノミネートされた。
感想
なんかすごいものを見た——観終わった直後、それ以外の言葉が出てこなかった。
罪を抱えた人たち、不幸な人たち、愛に渇望しながら愛を拒絶する人たち。そんな人物ばかりが3時間にわたって描かれているのに、不思議なことに多幸感が残った。あらゆるシーンが素敵で、それらを一つ一つ取り上げていくと本当に時間がかかる。だから観た直後は「仮で4.5」とだけメモした。本当は点数なんてどうでもよくなっていた。
誰もが闇や孤独を抱えている。それは変わらない事実として画面に刻まれている。でも、ふとした瞬間にその孤独が何かとつながって、心が軽くなる。そういう瞬間がこの映画には何度も訪れる。
冒頭で語られる「偶然の連鎖」の話が、ある考えを植え付ける。この世界には、単なる偶然では説明できない何か大きな力が働いているのではないか——という感覚。神や宗教の話は一切出てこないのに。
「Wise Up」が流れるシーンで画面を見ていると、各人物の内側に溜まっていたものが一気に表面に滲み出てくるのがわかる。それぞれ別々の場所にいるのに、同じ方向を向いている。この構成を映像として成立させていることに、素直に驚く。クローディアの、父を拒絶しながら愛に渇望する矛盾した姿。その複雑性が全体の軸になっていると感じた。
そして終盤の、あの出来事。何が起こるかはここには書けない。ただ、この映画が最後に持ってくる表現の形に、本当に驚いた。
それぞれの話が「一点に収束する」というより、バラバラだった感情の矢印が一瞬同じ方向を向く——そういう映画だった。複雑だったものが整理されていく感覚。奇跡という言葉を軽々しく使いたくないけれど、映画の内容においても、映画そのものの存在においても、奇跡的な何かが起きていると感じた。
タイトルの「マグノリア」は、ロサンゼルスのマグノリア大通りから来ているという。多様な地区と人々をつなぎ合わせる場所。この映画そのものの構造だ。
孤独を知ることで、世界の広さを知ることができる。この映画はそのことを、3時間をかけて静かに、でも力強く証明してみせた。
他の人の見方
第50回ベルリン国際映画祭での金熊賞受賞という評価は、この作品の国際的な地位を示している※1。
賛否が分かれやすいタイプの映画でもある。187分という長さや群像劇の複雑さを「散漫」と受け取る視点がある一方、観終えたあとの感情の密度を高く評価する声も根強い。公開当初から両極端な反応を引き出してきた作品で、初公開時には劇場での途中退席が報告されていたことも、その特異さを物語っている。
トム・クルーズの演技については、ゴールデングローブ賞助演男優賞受賞という形で評価されている※1。それまでのスター的なイメージとは大きく異なる役柄への挑戦が、俳優としての新たな側面を引き出した。アカデミー賞では助演男優賞でマイケル・ケインに敗れたが、以降クルーズが本格的なアワーズ・レースで争うことはほとんどなくなった。
こんな人に
・群像劇が好きで、複数の人生が交差する瞬間の爆発力を体験したい人
・音楽と映画が分かちがたく結びついた作品を探している人
・ポール・トーマス・アンダーソン(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ファントム・スレッド』)の作品を追いかけている人
・孤独や家族の断絶を描いた映画の考察・感想を深めたい人
・「長い映画は苦手」という人にこそ試してほしい一本。187分があっという間に感じられるかどうかが、この映画との相性を測るリトマス試験紙になる
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出典
- ※1 映画.com
- ※2 Screen Rant




