視聴方法
U-NEXTにて配信中(2026年5月〜)
あらすじ
1985年、大不況にあえぐダブリン。父親の失業により荒れた公立校に転校させられた14歳のコナーは、いじめと家庭崩壊の危機のなかで孤立していく。そんなある日、街で見かけた少女ラフィナに一目惚れした彼は、思わず「僕のバンドのMVに出ない?」と口走ってしまう。バンドなど存在しないのに。仲間を集め、曲を作り、夢中で音楽に飛び込んでいく少年たちの、眩しくて少し切ない青春の物語。
見どころ
80年代アイルランドの空気感と音楽
デュラン・デュラン、ホール&オーツ、ザ・クラッシュ、ザ・キュアー……80年代ポップカルチャーへの愛情がスクリーンにあふれている。当時の衣装やヘアスタイル、MTV的なMV撮影シーンなど、細部まで作り込まれた時代の空気が心地よく、ノスタルジーと新鮮さが同居している。その音楽を知らなくても、熱量は確実に伝わってくる。
劇中バンドのオリジナル楽曲
物語の進行とともに少年たちが生み出していく楽曲は、どれも本作のためにつくられたオリジナル。バンドとして成長していく様子が音楽そのものの変化に重なり、曲を聴くだけで物語の感情が蘇ってくる。エンドロールが終わってもサントラを探したくなる、そんな一作だ。
不器用で無謀な”若気の至り”
計画性などない。うまくいくかもわからない。それでも突っ走ってしまうのが14歳というもの。強引な展開さえも「それでいい」と思わせてしまう。青春特有の無茶と純粋さが絶妙なバランスで描かれており、観ているうちに自分の痛くて愛しい過去が自然と浮かんでくる。
制作背景
監督のジョン・カーニーは1972年、アイルランドのダブリン生まれ。ダブリンに生まれ育ち、アイルランドのロックバンド「ザ・フレームス」のベーシストやミュージック・ビデオ制作を経験したのち、映画監督に転身したという異色の経歴の持ち主だ。低予算ながら世界的ヒットを記録した『ONCE ダブリンの街角で』(2007)、そして『はじまりのうた』(2013)と一貫して音楽映画を追求してきた。
その2作を経て、カーニーはさらに個人的な、より自伝的な作品を作る機が熟したと感じ、本作の制作へと動き出した。とはいえ、カーニー自身は後のインタビューで語っている——「半自伝的なのは学校に関わる部分だけで、あとはかなりフィクションに近い。荒れた学校に通い、バンドを組んだのは本当の話だ」と。※1
また、自らの作品が「ミュージカル」と見られることを最初から意識的に避けていた。IMDbに残るカーニーの発言によれば、「ミュージカルを作りたかったが、ミュージカルだと気づかれたくなかった。こっそりと忍び込む”ステルス・ミュージカル”にしたかった」という。※2
キャスティング
本作のオーディションにはアイルランド各地から数千人もの子どもたちが参加した。主演のフェルディア・ウォルシュ=ピーロはウィックロー州アッシュフォード出身で、会場に5時間待ちの列を見て一度は帰ろうとしたが踏みとどまり、ビートルズの「Blackbird」を歌ってオーディションを勝ち取った。※3当時14歳で演技経験はなかったが、音楽的素養が決め手となった。カーニーは「コールバックを重ねるたびに彼はどんどん良くなっていった。断るたびに、より強い意志を持って戻ってくる」と語っている。※4
コナーの父を演じるエイダン・ギレン、母役のマリア・ドイル・ケネディ、兄役のジャック・レイナーは2014年9月に発表された既成俳優陣で、バンドメンバーを含む少年たちは全員無名の新人俳優で固められた。
楽曲・サウンドトラック
サウンドトラックは2016年3月にDeccaレーベルからリリースされ、ダブリンのウィンドミル・レーン・スタジオなどで録音された。オリジナル楽曲の作曲はジョン・カーニーとミュージシャンのゲイリー・クラークが担当。劇中バンドの成長と並走するように楽曲が変化していく設計は、カーニーの音楽家としてのバックグラウンドが直接活きた部分だ。
公開・受賞
本作は2016年1月24日、サンダンス映画祭でワールドプレミアを迎えた。製作費400万ドルに対して全世界で約1,360万ドルを稼ぎ、第74回ゴールデングローブ賞ではミュージカル・コメディ部門の作品賞にノミネートされた。アイルランド映画テレビ賞(IFTA)では、ジャック・レイナーが助演男優賞を受賞したほか、作品賞・監督賞にもノミネートされた。※5
なお、前作『ONCE ダブリンの街角で』はインディペンデント・スピリット賞の外国映画賞を受賞し、『はじまりのうた』の劇中歌「Lost Stars」はアカデミー賞歌曲賞にノミネートされている※6。
余談
本作を原作とした舞台ミュージカルも制作されており、脚本をエンダ・ウォルシュが担当。ニューヨーク・シアター・ワークショップでオフブロードウェイ上演された。映画の世界が舞台芸術へと拡張されたことは、楽曲のクオリティが純粋に評価された証左でもある。
感想
泣いた、とか感動した、とかじゃないんだけど、なんか、じんわりと奮い立たされた。そんな映画だった。
展開はたしかにやや強引に感じた。「え、もうそうなるの?」という場面がいくつかある。でも観ているうちに気づく——ああ、これが”若気の至り”というやつなんだ、と。計算じゃなく衝動で動く、あの無鉄砲さ。それがそのまま映画のテンポになっているのかもしれない。
ジョン・カーニーの他の作品に比べて、明らかにエネルギッシュでフレッシュ。同じ音楽映画でも、この作品は特別に生き生きとしていた。
挿入歌が全部かっこいい。本当に全部。曲がかかるたびに感情のスイッチが入る感覚があって、音楽ってこういう力があるよな、とあらためて思わされました。劇中でコナーが曲を作るたびに、サウンドが少しずつ変化していく。その変化が積み重なって、気づけば彼らの成長を音で体感していた。
ただ、冷静な自分もいて——「この2人、きっと別れるだろうなぁ」という感想が頭をかすめてしまった。でもまあ、人生そんなもんか。それでも今この瞬間、あんなに夢中になれることがあるって、すごく眩しい。
青春とは、うまくいかないことを知らないまま全力で走れる、あの短い時間のことなのかもしれない。
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他の人の見方
この映画をめぐる感想として目につくのは、「観終わったあとに元気になれる」「80年代音楽が好きな人にはたまらない」という声と、「ストーリーよりも音楽と雰囲気を楽しむ映画」という声が混在していることだ。どちらも否定しがたい。強引な展開をドラマの瑕疵と取るか、青春の衝動そのものと取るかで、受け取り方はかなり変わる映画だと思う。
こんな人に
・音楽が好きで、映画の中でも「本物の演奏の熱量」を感じたい人
・80年代のポップカルチャー、MTV、ニューウェーブが好きな人
・自分の10代の頃の無謀さや恥ずかしさを、少し笑いながら振り返りたい人
・ジョン・カーニー作品(『ONCE』『はじまりのうた』)が好きな人
・「洋画は難しそう」と感じている映画初心者——言葉より音楽が語る場面が多く、青春の感情はどの国でも共通なので、物語に自然と入り込める一本
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