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『さがす』考察・感想|ラストの余韻と、父娘を繋ぐ言葉の重さ(ネタバレなし)

『さがす』考察・感想|ラストの余韻と、父娘を繋ぐ言葉の重さ(ネタバレなし)

監督 片山慎三

主演 佐藤二朗、伊東蒼

製作年 2022年

上映時間 123分(PG12)

ジャンル サスペンス・ドラマ


※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


目次

視聴方法

Prime VideoやU-NEXT、Netflix、TSUTAYA DISCASほか複数のサービスで取り扱いがある(2026年10月時点)。見放題・レンタルの区分や最新状況は各サービスで要確認。

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あらすじ

大阪・西成に暮らす父・原田智(佐藤二朗)と娘の楓(伊東蒼)。ある日、連続殺人犯の指名手配写真を目にした智は、その顔に見覚えがあると気づく。「捕まえたら300万もらえる」と告げて娘を一人残したまま男を追い始める智。やがて物語は予期せぬ方向へと転がりだし、父と娘、そして連続殺人犯・山内照巳(清水尋也)を巡る複雑な関係が浮かび上がってくる。「娘の視点」「殺人犯の視点」「父親の視点」という三部構成で描かれる、社会の片隅に生きる人たちの痛みを西成の町並みとともに映し出すサスペンス・ドラマ。

見どころ

西成の空気が、映画そのものになっている

大阪・西成区でのロケが生み出す独特の空気感が、この映画の地盤になっている。街並みや通行人から醸し出される生々しさは、スタジオでは絶対に再現できない。被写体を撮るというより、空間そのものをカメラで捉えている感覚。その中に、ある家族の物語が内包されているという構造が、フィクションを限りなく現実に近づけている。

佐藤二朗と伊東蒼、この2人でなければ成立しなかった

楓を演じた伊東蒼の演技は、ベテランと呼んでも差し支えない安定感がある。14歳という設定を超えた存在感で、物語全体を支えている。佐藤二朗は、普段のコミカルなイメージを一切排し、哀愁と人間臭さだけで役を体現している。この2人が揃ったことで、映画の感情的な核が成立している。

ラストの「むかえにきたで」が何重もの意味を帯びるまで

テンポよく進む序盤から、中盤以降は回想を巧みに使って視点を切り替えていく構成が面白い。「さがす」「見つける」「むかえにきたで」といったシンプルな言葉が、家族の文脈に置かれた途端に何重もの意味を帯びる。言葉の選び方と、その配置の呼吸が、最後の一撃をつくっている。結末そのものはここでは明かさない。ただ、あの言葉が放たれる瞬間の文脈だけは、観てから考えてほしいと思う。

制作背景

片山慎三監督は、高校卒業後に映像系の専門学校を経てテレビの現場に入り、2007年頃に『TOKYO!』収録の「シェイキング東京」でポン・ジュノ監督組に助監督として参加した。その現場でのポン・ジュノ監督の映画への姿勢に感銘を受け、ノーギャラでもよいからと頼み込んで『母なる証明』にも助監督として参加している。

『さがす』の着想を得たのは、子どもの頃の実体験だという。父親が通勤で利用していた阪急電車の車内で、逃亡中の殺人犯を見かけたという経験が出発点になっている※1。

プロデューサーの山野晃からオファーが届いたのは2019年2月で、『岬の兄妹』の公開直後のことだった。クランクインを迎える2021年2月まで約2年間、脚本を書き続けた。執筆は片山監督・小寺和久・高田亮による3人のリレー方式で進められ、最終的に10稿を重ねた※2。

片山監督は、プロデューサーや映画会社の意見を聞くなかでエンターテイメント性や商業性をより求められていると感じ、自分としてはもう少し作家性の強い方向で考えていたため、その差を実感したと語っている。一人でやっていたら、もっと難解で残虐な方向になっていたかもしれないという。

大阪・西成区をロケ地に選んだ理由について、片山監督は「街の感じが大事」であり「大阪ならではの物語」と感じたからだと述べている※1。また、関西弁を用いることで、智と楓がお互いをツッコみ、ツッコまれるという会話の応酬を通じ、父娘関係の絶妙な距離感を表現したかったと監督は語っている。

佐藤二朗の起用については、片山監督が手紙を送り、「『宮本から君へ』を観て、凄いと思った」と伝えたことがきっかけだった。佐藤自身は、その手紙から「自分のパブリックイメージとは違う役をやらせたいのだ」と読み取り、オファーを受け入れたと語っている※3。

指名手配中の連続殺人犯・山内照巳を演じたのは清水尋也で、森田望智が連続殺人犯と関わりを持つムクドリ役で出演している。清水は山内を作り上げる際、片山監督と細かく話し合った部分として「目つき」を挙げており、山内が誰かを殺めようとするときの獲物を見据えるような目つきと、善人を装っているときの目つきを使い分けるよう意識したという。

ポスタービジュアルデザインを担当したのは、気鋭の韓国のデザイン会社「Propaganda(プロパガンダ)」。本作はアスミック・エース&DOKUSO映画館による次世代クリエイター映画開発プロジェクト「CINEMUNI(シネムニ)」の第1弾作品として企画され、韓国との共同製作という形で実現した※4。第26回釜山国際映画祭のニューカレンツ部門でワールドプレミアを迎え、ヨーテボリ国際映画祭にも出品。国内では第14回TAMA映画賞で最優秀新進監督賞・最優秀男優賞・最優秀新進女優賞の三冠を受賞し、第62回日本映画監督協会新人賞も受賞している※1※5。

感想

観ていて、ふと韓国映画の匂いを感じた。そこで思い出したのが、片山慎三監督がポン・ジュノ監督のもとで助監督を務めていた経歴だ。そのイズムが、この映画には確かに宿っている。

特に、駅のホームで待つ男を見つけてから追いかけるシーンまでのカメラワーク。あの呼吸はぽい、という以上の何かがある。逃走シーンのテンションも含めて、あの感覚を日本映画でここまでやれるのかという驚きがあった。前作『岬の兄妹』でもそうだったように、片山監督は社会的な弱者やマイノリティーに焦点を当てる。グロテスクな表現や性的描写にも蓋をしない。ポン・ジュノ的な姿勢が、日本の土地と人物の中にきちんと根を張っている。

西成区のロケが映画全体の質感を決定づけている、というのも観ながら強く感じたことです。被写体を撮るというより、空間を撮っている。街並みや通行人から滲み出る空気が、どんな演技よりも正直に画面に刻まれていて、その中にある家族の物語が内包されていく構造。フィクションを現実に近づけるやり方として、ロケ地の選択はここまで機能するのかと思った。

佐藤二朗は、普段の笑いを全部脱いでいた。コメディのイメージが強い俳優だからこそ、あの哀愁は効く。人間臭い父親の佇まいで、画面を支えている。韓国映画で言えば、どこかソン・ガンホに見えてくる瞬間がある。それはイズムの話だけではなく、生活者としての体温が画面から出ているということだと思う。そして伊東蒼。ベテラン女優のような安心感という言い方しか出てこなかった。この映画を支えているのは、最終的に彼女だ。

ストーリーの構成は意外と速い。テンポよく進む前半から、中盤以降は回想を使って視点を切り替えていく。娘がほとんど出てこなくなる時間帯があり、父親と青年の側だけを追い続ける。その切り方が、後になって効いてくる。

青年・山内は連続殺人犯として登場するが、最初から純粋な欲望で人を殺していたのだろうか、とずっと考えていた。最初は、無理に生きながらえさせられている人たちへの慈悲のような感覚があったのではないか。それが歪んでいく過程がある。そう考えると、父・智もある意味で同じ道の入り口に立っていたことになる。

「さがす」「見つける」という言葉は、肉体的な意味ではなく精神的な意味で使われている。父親が暗闇の中を彷徨おうとしていたとき、娘がその状態から引き戻す。そういう意味での「さがす」であり「見つける」なのだと思う。単純な言葉が、家族という文脈に置かれたとき、こんなにも重くなる。

「むかえにきたで」という最後のワードが、ここまで響いた映画はない。親しみと愛情の中に、悲しみのニュアンスが複雑に混ざり合っている。あの言葉は、単純な再会の言葉ではないから。

卓球のシーンは、まだ答えを出せていないでいます。母親が卓球の玉を持っていた描写があったから、玉は母親の比喩なのか。それともラリー自体が娘と父親のコミュニケーションを指しているのか。自分の知っている父親はもういないという喪失感として受け取っていいのか。とにかく、あのシーンが終わったあとに残る強い喪失感は本物だった。

女の子と男の子の関係性には、どこか昭和の匂いがする。その田舎臭さが映画全体から漂っていて、懐かしさまで感じさせてくれる。重い映画なのに、不思議とその温度が心地よかった。

他の人の見方

映画評論家の町山智浩は「初商業監督作にしてこの恐ろしい完成度、映画的な豊かさ」と絶賛し、「これからも間違いなく追っていかなければいけない監督」と評している※6。

映画.comのユーザーレビューでは「予定調和に陥らない魅力的な物語」「テレビや普段の映画とは違った佐藤二朗のシリアス演技と、いつもと違った文脈で炸裂するユーモアの両方が堪能できる」という声がある※7。

一方で、「予想の裏切られ方が気持ちよくない」「脚本の詰めが甘い」という批判的な意見もあり、高評価への疑問を提示する批評も存在する※8。

TAMA映画賞の授賞式では、佐藤二朗の演技について「多面性のある父親役の多彩で濃淡をつけた演技は、観客を震撼させると共に感動に導き、役者としての凄みを見せてくれた」と評価されている※9。

こんな人に

・ポン・ジュノ作品が好きで、その系譜を日本映画に感じたい人
・佐藤二朗の「普段と違う顔」を見てみたい人
・西成という場所が持つ独特の空気に興味がある人
・伏線や構成の組み立てが緻密なサスペンスが好きな人
・邦画サスペンスをあまり見てこなかったけれど、社会派の重みのある物語に入門したい人

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