視聴方法
Prime Video、U-NEXT、TELASA、Lemino、Netflix、TSUTAYA DISCASなど複数のサービスで取り扱いあり(2026年10月時点)。見放題・レンタルの区分や最新状況は各サービスで要確認。
あらすじ
澤村伊智による第22回日本ホラー小説大賞受賞作『ぼぎわんが、来る』を、中島哲也監督が豪華キャストで映画化した戦慄のホラー・エンタテインメント。幸福そうな家庭を築いていた田原秀樹のもとに、ある日「あれ」が来るという噂が広まり始める。やがて身の回りで起こる不可解な出来事は、夫婦の歪んだ関係や隠された過去と絡み合いながら、取り返しのつかない事態へと発展していく。霊媒師の比嘉琴子に助けを求めた野崎和浩は、正体不明の”何か”と対峙することになる。
見どころ
三部構成が生み出す「視点のシフト」
第一部は夫の田原秀樹視点、第二部は妻の田原香奈視点、第三部は霊媒師を頼る野崎和浩視点と、語り手ごとに世界の見え方が変わる。ホラーとして始まった話が、夫婦の歪みや人間のどろどろとした内面へと滑り込んでいく構成の切り替えは、観ていてかなり体力を使う。
中島哲也監督ならではの情報密度とテンポ
中島哲也監督は、もともとは気鋭のCMディレクターとして頭角を現した人物だ。短い尺に膨大な情報を詰め込む技術が、本作はそのスキルが全編にわたって惜しみなく発揮されており、間のない会話劇とあっけないほど早い展開のテンポが独特の体験をつくり出している。
ラストが残すもの——余韻をどう受け取るか(ネタバレなし)
「得体の知れない何かがじわじわと忍び寄ってくる恐ろしさと、人間の怖さを巧妙かつリアルに映し出す」という言葉がぴったりの映画だが、結末はそのどちらで終わるのか——ホラーとして幕を下ろすのか、人間の話として着地するのか。その問いを抱えたまま最後のカットを迎えることになる。何が「来た」のか、何が「残った」のか。ネタバレなしで語れることは、余韻が明確な答えを与えない構造になっているということだけで、それが本作の誠実さだと思っている。
キャストの振り切り具合
松たか子が演じる比嘉琴子は「日本最強の霊媒師」として登場し、妹思いではあるが、見た目も行動もいちいち独特な存在感を放っている。柴田理恵の役どころも含め、キャストが揃って振り切ったパフォーマンスを見せている。岡田准一は撮影中「毎日驚いていた」と語っており※1、CGによる異常なシーンへのリアクション演技が随所に見られる。
制作背景
2014年の『渇き。』以来、久々の新作となる中島哲也監督のもとに、岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡らの豪華キャストが集結した。
中島哲也監督は「登場人物がおもしろかったことに尽きます」と映画化の動機を語り、「ホラー映画を作ったという感覚はない」とも明かしている。また松たか子のキャスティングについては、「『告白』のときと同じように、この役を演じることができる人は松さんしかいないと最初に思ってしまった」と述べている※2。
企画・プロデュースは『君の名は。』などで知られる川村元気が担当。脚本には劇作家の岩井秀人も共同参加している。
撮影監督の岡村良憲は、長編映画デビュー作となった本作のために2017年12月からコマーシャルの仕事をすべて断って制作に集中。脚本決定稿前の段階から参加し、毎日打ち合わせやロケハン、機材テストを重ねたという。中島監督から求められたのは「スタティック(静的)」な映像で、そのコントラストが本作の独特な映像感覚を生み出している※3。
初日舞台挨拶では、中島哲也監督が「本当に間に合わなさそうだった」と公開直前まで編集作業を続けていたことを明かした。また男優への演出については「ほぼ行わなかった」とし、「男優には興味ない」という率直な発言も話題となった※4。
本作は第42回日本アカデミー賞で優秀監督賞・優秀主演男優賞・優秀助演女優賞を受賞。第92回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画部門でも第6位にランクインした※5。
感想
最初から最後まで、ギュウギュウにいろんなものが詰め込まれている。そのことは間違いない。
ただ、それがくどく感じすぎないのは三部構成になっているからだと思います。一部が終わって、二部が始まる。その切り替えの瞬間に、話の手触りが別の映画になる。一部は完全に心霊・悪霊の話だったのに、二部では夫婦の歪みや人間同士のどろどろとした部分が前景化してくる。そして三部は過去の自分と対峙することで前を向く話、未来や希望の話になっていく。三つの段落を持った小説を読んでいるような感覚、とでも言えばいいか。
だから正直に言ってしまうと、何が「来る」のかはどうでも良かった。「来る」という恐怖を十分に見せながら、その外枠の中で描かれる人間模様に焦点を当てた作品だと感じていました。ホラーをホラーのまま消費させてくれないところが、この映画の一番の個性かもしれない。
テンポについては、本当に異常なほど良い。間がないぐらいの会話劇、そしてあっけないほど展開が進む。このスピード感はなかなか他の作品では出せない。中島哲也監督が広告・CM出身の人だというのが、ここにはっきりと出ている。短い尺の中であらゆる情報を詰め込む技術が、ホラー映画の文法の上でそのまま働いている。リアリティはない。でも開き直ってとにかく勢いでゴリ押ししていく感じが、観ていて気持ちいい。
様々な表現が盛り込まれていたぶん、あちこちから影響を受けているのも見えてくる。悪霊に取り憑かれる姿は『エクソシスト』っぽいし、あっけなく事故で死んでいく感じは『ファイナル・デスティネーション』。沖縄からやってくる比嘉琴子の仲間たちは、観ながらなぜか『平成狸合戦ぽんぽこ』の三長老が浮かんできた。そして後半の野崎和浩は、どんどん『リング』の高山竜司に見えてくる。テレビを使った表現もあるし、参照元がかなり広い映画だと思います。それを「雑多」と取るか、「映画好きへの目配せ」と取るかで印象が変わりそう。
気になったのは二点。終盤の展開が、中盤までのテンポと比べて間延びしていたこと。妖怪大戦争的な壮大な話になっていくのだが、そこに至るまでのスピード感が嘘みたいにスローになる落差がある。それから民俗学者の津田大吾の描写が中途半端になっていたのが残念でした。もう少し掘り下げてほしかった。
松たか子の強キャラ感は本物だし、柴田理恵はハマり役だった。終わり方は余韻があって、個人的には好みです。
他の人の見方
映画.comには568件のレビューが集まっており、映像・演出・キャストへの評価は高い一方、原作からの改変やストーリーの消化不良感を指摘する声も目立ち、評価が二極化しているとの評価がある※6。
シネマトゥデイのレビュアーは「とにかくヤバい」と記し、岡田准一の役どころを「存在の核に虚を抱えるつかみどころのない男」と評している。劇場体験の重要性を強調する声も多く、大きなスクリーンで観ることで本作の密度が初めて体験できるという見方は、複数のレビュアーに共通している※7。
こんな人に
・日本のホラーで「恐怖」よりも「人間関係のおぞましさ」を味わいたい人
・情報密度の高い、テンポの速い映画が好きな人
・松たか子や岡田准一が振り切った演技をしているのを見たい人
・映画の中の「映画的な引用・目配せ」を探しながら観るのが楽しい人
・ホラー映画が苦手でも、人間ドラマとして入っていける入口があるので、「怖い映画はちょっと…」という人にも試してほしい一本
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