視聴方法
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あらすじ
1980〜90年代の「宇宙ブーム」を生き延びた、UFOと宇宙人を信じ続ける雑誌編集長タン・ジージュン。時代に取り残され、オカルト扱いされながらも宇宙人を追い続ける彼は、ある日「宇宙人に連れ去られた」という少女の噂を掴む。個性的な仲間たちと中国西南部の田舎を旅するロードムービー。笑えて、少し泣ける。フェイクドキュメンタリーの体裁で、人間の存在意義という永遠の問いに向き合う一作だ。
見どころ
宇宙服が脱げない男——冒頭3分が全てを語る
記念撮影のために宇宙服を着たタンが、脱げなくなる。事態は少しずつ悪化し、最終的に宙吊りになる。この情けなさとドラマチック性の同居が、そのままこの映画の縮図になっている。笑いながら、何か切ないものを感じさせる開幕。この冒頭だけで、監督の手腕が伝わってくる。
中国の田舎が映す、信仰の余地
舞台は上海でも北京でもない。撮影の主な舞台は中国・四川省の農村部で、冒頭の北京パートを終えると、物語の大半は中国西南部のロケ地へ移行する。高層ビルも観光スポットもない。だからこそ、UFOを信じ続ける人たちの姿がリアルに見える。発展した都市部には収まりきらない感情や信仰が、この風景の中にだけ生きている。旅先の景色として見るだけでも価値がある。
フラクタル構造——宇宙と個人が重なる瞬間
宇宙の概念は、視点によって変わる。本作は終盤に向かうにつれ、広大な宇宙の話と、一個人の内側にある問題が、フラクタル的に重なっていく構造を持っている。「自分も宇宙の一部である」という気づきが、ドラマの核心に接続されていく演出は静かでありながら、確かに何かを揺さぶる。
制作背景
着想のきっかけ——「冷凍庫の宇宙人」
コン・ダーシャン監督が本作を着想したきっかけは、あるニュースだった。ある村の住民が「宇宙人を捕まえた」とマスコミに連絡したところ取材が殺到。しかし記者たちが目にしたのは、冷凍庫に保管されたシリコンのオモチャだった。カメラを前にして、その住民は宇宙人を捕らえる過程を真剣に語ってみせたという。実際に話していることは荒唐無稽なのに、このうえなく真面目で真剣——このギャップに惹かれたコン監督は、かつて中国で宇宙ブームを牽引したUFO雑誌「飛碟探索」をモデルに、くたびれた中年の編集長が”宇宙人探しの旅”をする物語を構想していった。
実在したUFO雑誌「飛碟探索」
コン・ダーシャン監督が雑誌「宇宙探索」のモデルにしたのは、1981年に創刊され、80〜90年代の宇宙ブームの牽引役として絶大な人気を誇った実在の宇宙雑誌「飛碟探索」(「飛碟」はUFOの意)。90年代には「発行部数世界一のUFO雑誌」と言われた。2019年に休刊したが2020年に復活し、今も発行されているものの、UFOや宇宙人に関する話題は減り、より科学的な内容が大半を占める構成になっている。
コン監督は「当時の読者や編集者が、今も変わらずUFOや宇宙人を探すことに夢中だったら?」と想像したのだ。その「もしも」の問いが、この映画の原点にある。
プロジェクト始動と製作体制
本作は、1990年生まれのコン・ダーシャン監督が北京電影学院の卒業制作として企画したもの。それを北京電影学院教授のワン・ホンウェイと、SF映画『流転の地球』(2019年)のグオ・ファン監督の2人がサポートし、エグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねるプロジェクトが2019年にスタート。
グオ監督がプロデューサーに就いたこともあり、中国の有名俳優などからの出資も得て、学生の卒業制作としては破格の4億円もの制作費を集めることに成功した。
コロナ禍と2年間の脚本執筆
コロナの影響でクランクインが遅れた結果、脚本に2年もかけることになった。その間に、有名女優のアイ・リーヤーや実力派のヤン・ハオユーの出演を取り付け、さらには80名ものクルーを編成して人里離れた中国西南部でロケを敢行した。
撮影手法——モキュメンタリーの美学
本作はモキュメンタリー形式を採用し、ハンドヘルドカメラによる粗いドキュメンタリー的映像で、UFO目撃情報や宇宙人との遭遇調査を模したアマチュア映像を再現している。撮影監督はベルギー人のマティアス・デルヴォー。神経質なほど揺れるカメラ、直接語りかけるインタビュー、落ち着きのない編集で、没入感のある擬似リアルな質感を作り上げた。
カメラは最初、出来事の存在を記録することに重点を置き観客の登場人物への信頼を高める。プロットが進むにつれてカメラは徐々に身を隠し、役者の演技と物語に席を譲り、時にはジャンプカットや暗転などによって観客と交流する。
ヤン・ハオユーと受賞
主演のヤン・ハオユーは、ワン・ビン監督の骨太な歴史映画『無言歌』(2010年)でも知られる実力派俳優だ。本作での演技により、北京国際映画祭「注目未来」部門の男優賞を受賞したほか、「青年電影手冊」の2022年「今年の男優」に選ばれた。
受賞と国際的評価
北京電影学院の卒業制作でありながら、2021年の平遥映画祭で映画ファン栄誉賞はじめトリプル受賞。アジア各国の映画祭・映画賞で大きな注目を集め、2022年大阪アジアン映画祭でも会場を爆笑と涙で包んだ。さらに中国・香港のアカデミー賞と言われる金鶏奨では、最優秀脚本賞を受賞した。
平遥国際映画祭での費穆榮誉 最優秀作品賞(ベスト・フィルム)受賞後、国際プレミアをロッテルダム国際映画祭で飾り、香港国際映画祭、大阪アジアン映画祭を含む数多くの国際映画祭でも上映された。
2023年4月に中国で公開されると、約150万人を動員するヒットを記録した。
コン・ダーシャンとは何者か
「論語」で有名な中国春秋時代の思想家・孔子の末裔だというコン・ダーシャン。孔子の故郷である山東省の曲阜の出身で、75代目にあたる子孫。孔子の子孫は110代まで名前にどの漢字を使うかが決まっており、75代目は「祥」の字のため、本名は孔祥山。「ダーシャン(大山)は子供時代の呼び名で、このほうがかわいいと思ったから」と監督名の由来について説明している。
コメディでありながら悲劇でもある、という本作のトーンについて、コン監督はこう語っている。「笑いから悲しさや寂しさを切り離せないのは、それが僕自身の人生観だからかもしれません。この映画は”荒唐無稽”がテーマですが、物語としては悲劇でもあります。だから表面的には笑える、面白い映画にしたかったけれど、その背後にある人生の悲しさと寂しさも伝えなければと思っていました」。
感想
こういう作品が、たまらなく好きだ。
コミカルで笑える。でもその笑いの奥底に、ずっとある問いが潜んでいる。「私たち人類がこの宇宙に存在する意味とは、一体なんなのか」。SFというよりは、人間の話だった。
未知のものに引き寄せられる気持ちは、誰でも持っている。ただ、それに縋り続けている人には、何か別の理由がある。タン・ジージュン(ヤン・ハオユー演じる主人公)はUFOや宇宙人を追いかけながら、実はもっと別の何かと向き合おうとしている。その構造が、じわじわと見えてきたとき、コメディのはずの映画が急に違う表情を見せてくる。
冒頭が本当にいい。宇宙服が脱げなくなって、少しずつ状況が悪化して、最終的に宙吊りになるタン。情けない。でも妙にドラマチック。この一幕が、映画全体の展開を暗示するような描写になっていて、監督の手腕を最初の数分で感じることができた。
ストーリーは単純なロードムービーだ。でも、そこに含まれるタン個人の問題がフラクタル的に広がっていく。宇宙の概念は視点や考え方によって変わる。宇宙を追いかけているようで、実は自分の内側を旅している。宇宙の話と、一人の人間の話が重なっていく瞬間に、静かに何かが揺れた。
中国西南部の田舎の風景もよかった。発展した都市ではなく、この土地にこそ、その国のリアルがある。ワクワクした。こういう景色が見られると、映画を観て本当によかったと思う。
細かいカット編集も独特のリズムを生んでいて、質感として好みだった。モキュメンタリーの体裁なので、最後の展開にカメラマンは立ち会ったということになる——そのことも、ちょっと考えてしまった。
北京電影学院の卒業制作と聞いて、正直驚いた。このクオリティは、あり得ない水準だ。調べてみるとグオ・ファン監督のサポートがあったこともわかり、納得はしたけれど、それでも監督コン・ダーシャンの才能の確かさは疑いようがない。
世界に対する苦しみを、未知の存在を通じて別の視点で捉えようとする。それは自分を守るためでもある。答えなんて見つからないかもしれない。でも、生きていれば世界は自分が思っている以上に大きく、素晴らしいもので溢れている。そしてそれは、自分の中に存在している。
そういう着地だったと思う。
他の人の見方
映画レビューサービス上の平均スコアはおおむね3.7前後(映画.com・各種レビューサービス集計)で、「妄想が現実をどんどん塗り替えていき、最後に辿り着くのは圧倒的な空虚さ——それがオフビートなロードムービーとして描かれる」と中国インディーズらしい構成を称える声がある一方、「壮大な宇宙の話かと思いきや、描かれるのは地味で執念深い日常の積み重ね」と肩透かしを受けたとの感想も並ぶ。
冒頭の宇宙服シーンについては「この映画全体の縮図」「ドラマチック性と滑稽さが同居する見事な開幕」との評価が多い。フェイクドキュメンタリーの体裁とコミカルな質感の中に「人間とは何か/なぜ生きるか」という普遍テーマを織り込む構成への絶賛が多く、「フラクタル的な構造で宇宙と個人を重ね合わせる終盤の演出」を支持する声が圧倒的だ。
一方で、111分の単線的なロードムービー構造に「中盤が冗長」「モキュメンタリーの様式が中だるみする」と感じる声もある。SFとして期待すると「SF的ガジェットや世界観の作り込みが薄い」との指摘もあり、終盤のスピリチュアルな着地については「答えを観客に丸投げ」「観念的すぎる」と評価が割れているのもまた事実だ。
よくある質問
原作はありますか?
本作はオリジナル脚本作品で、特定の原作小説や漫画は存在しない。脚本はコン・ダーシャン監督と共同脚本家のワン・イートン(王一通)が執筆しており、コロナ禍の影響も重なり、脚本執筆だけで2年間を費やした。ワン・イートン本人は俳優としても本作に出演している。
実話が元になっていますか?
ストーリー自体はフィクションだが、登場する雑誌「宇宙探索」のモデルは、1981年に創刊され80〜90年代の宇宙ブームを牽引した実在のUFO雑誌「飛碟探索」だ。また、着想の直接のきっかけは、「宇宙人を捕まえた」と主張する村人の実際のニュースだった。真剣な顔で荒唐無稽なことを語る、そのリアルなギャップがこの映画の核心にある。
タイトル・英題にはどんな意味がありますか?
日本公開タイトル『宇宙探索編集部』は原題(中国語:宇宙探索編輯部)をそのまま日本語に対応させたものだ。一方、英語題は “Journey to the West”——中国の古典小説『西遊記』と同じ英訳が充てられており、コン・ダーシャン監督の長編デビュー作にあたる。中国西部への旅というロードムービーの構造と、未知の境地を目指す精神的な旅の二重の意味を持つ。
受賞歴を教えてください。
2021年の平遥国際映画祭でトリプル受賞(費穆榮誉 最優秀作品賞・青年審査員栄誉賞・映画ファン選択栄誉賞)を達成。その後も国際映画祭を席巻し、中国・香港のアカデミー賞と称される金鶏奨では最優秀脚本賞を受賞した。また、主演ヤン・ハオユーも北京国際映画祭「注目未来」部門の男優賞を受賞している。
監督コン・ダーシャンの他の作品は?
北京電影学院在籍中に複数の短編映画を手がけ、国内の映画祭で上映されてきたが、『宇宙探索編集部』が長編映画デビュー作にあたる。現時点で長編第2作の情報は公表されていないが、配給会社ムヴィオラの配信サービス「シアター・ムヴィオラ」では、コン監督の短編『法制未来時(法制の未来形)』が視聴できる。本作で確立した独自のコメディ・フェイクドキュメンタリー手法が次作でどう進化するか、注目の新鋭だ。
こんな人に
・UFOや宇宙人より「なぜ生きるのか」という問いに惹かれる人
・コミカルな笑いと内省的なドラマが同居する作品が好きな人
・中国の都市部ではない、田舎のリアルな風景に興味がある人
・モキュメンタリー形式の映画に馴染みがある人
・「SF映画は難しそう」と思っている人——本作はSFというより人間ドラマに近く、笑いながら入れる間口の広い一作だ
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