視聴方法
配信状況は変動するため、視聴前に各サービスの最新の取り扱いを確認してください(2026年6月時点)。本作はサブスク見放題が Netflix で取り扱いあり。FODでは単話レンタル配信もあります。Amazon Prime Video(見放題)・Hulu・DMM TV・Lemino・ABEMA・WOWOWオンデマンドでの配信は現時点では確認できません※1。
あらすじ
1980年、ニューヨーク州の大学に入学したばかりの19歳ロバート・シャフランが、初対面の学生たちから「久しぶり!」と次々に声をかけられて困惑する。やがて、自分と瓜二つの青年エディ・ガランドが別の大学に通っていることが判明し、再会した二人の写真が新聞に掲載された直後、もう一人——同じ顔のデヴィッド・ケルマンが名乗り出る。生き別れた三つ子の劇的な再会としてアメリカ中を沸かせた三人。ところが、ある記者の調査が、養子斡旋機関と一人の精神分析医による「ある秘密の研究」の存在を、ゆっくりと浮かび上がらせていきます。
見どころ
「感動の再会」から物語が反転していく構成
前半は明るい奇跡譚として始まる。瓜二つの青年たちがテレビ番組やトーク・ショーに次々と出演し、所作も嗜好もそっくりだとはしゃぐ姿は、ドキュメンタリーというよりよくできた青春コメディのよう。ところが中盤、ジャーナリストが養子斡旋機関ルイーズ・ワイズ・サービス周辺を取材し始めた瞬間から、画面の空気がじりじりと変わっていく。フィクションとノンフィクションの境目を意識的にずらしながら反転を仕掛ける構成は、本作最大の演出的見どころです。
ワードル監督自身が「本作の構成を誇りに思う」と語るように、過去のアーカイブ映像や証言インタビューと、現在進行形のオブザベーショナルな撮影という、通常は別々に扱われるドキュメンタリーの二つの文法を一本のなかに融合させた構造になっている。この対比が、観客をただの傍観者ではなく、発見のプロセスへと一緒に引き込む設計として機能しています。
当事者の証言と、アーカイブ映像の重ね方
三つ子のうち撮影時点で存命だったロバートとデヴィッドが、自身の半生をカメラの前で語り直す。そこに当時のニュース映像、ホームビデオ、養親たちのインタビュー、研究側の関係者の発言が積み重なっていく。「同じ顔」「同じ仕草」と語ってきた本人たちが、ある事実を知ってから言葉を選び直していく過程そのものが、本作の核。語り手の身体と記録映像のあいだに生じる温度差が、観る側の判断をどんどん揺さぶってきます。
撮影面では、ワードルが1980年代の再現ドラマ、現在のドキュメンタリー映像、スタジオインタビューを組み合わせて構成し、撮影監督にはドキュメンタリー作品40本以上のキャリアを持つティム・クラッグを起用している。クラッグはアナモルフィックフォーマットでの撮影を当初検討したが、大量のアーカイブ映像との兼ね合いを考慮して最終的にARRI Amiraによる1.85:1での撮影を選択した。
笑顔でかつての関与を語る研究側
中盤、ニューバウアー博士の研究に関わったとされる研究者の一人が、当時を振り返って笑いを混じえながら語る場面がある。何の罪悪感も窺えないその表情と口調こそが、この作品の倫理的射程を一気に押し広げる。被験者と研究者のあいだに横たわった非対称性を、画面はあえて長めに映し続ける。観客は「何が起きていたか」を頭で理解する前に、画面の温度の異常さで先に気づかされる、と言ったほうが近いかもしれません。
制作背景
企画の発端とワードルのデビュー
ティム・ワードルはドキュメンタリー制作会社RAW TVで開発責任者を務めていた時期に、若いプロデューサーのグレース・ヒューズ=ハレットからこの題材を持ち込まれた。その後、企画を立ち上げ資金を調達するまでに4年を費やし、「この映画は自分が監督しなければ」と確信を深めて長編監督デビュー作として手がけることになった。
初回撮影の6時間前、ワードルは作品が成立するか否かの瀬戸際に立たされていた。チームは4年間この企画に取り組んでおり、ようやく撮影に漕ぎ着けようとしていた矢先のことだった。「荷物を抱えてロンドンで空港に向かおうとしていたとき、出資者の一部が資金を引き上げると言い出した」とワードルは回想している。しかし最終的にはその最初の撮影への支援も確保され、プロジェクトは前進した。
出資はCNN FilmsとChannel 4が担い、制作はRAW TVが行った。
取材の困難と11,000ページの記録
プロデューサーのベッキー・リードは9ヶ月間、三人がユダヤ系家族・児童支援サービス(Jewish Board of Family and Children’s Services)の弁護士と交渉して、本来は当事者のものであるべき資料や映像へのアクセスを確保しようとした。撮影スケジュールは幾度も後ろ倒しになった。
映画が完成したあと、突然11,000ページ近くの記録が開示された。チームはその内容を精査し、追加撮影の可否を判断する必要に迫られた。ワードルは一週間、部屋に閉じこもってすべてを読み込んだという。
ニューバウアー研究とローレンス・ライト
題材の中心にあるのは、ニューヨークのユダヤ系養子斡旋機関ルイーズ・ワイズ・サービスと、精神分析医ピーター・B・ニューバウアー博士(NYUおよびコロンビア大学精神医学教授)による秘密の双子・三つ子分離育成研究だ。三人は1961年生まれで、生後6ヶ月に経済階層の異なる3家庭へ養子として送り出されており、これはニューバウアーらによる秘密の「nature vs. nurture」研究の一環だったとされる。
この研究の存在を最初に世に知らしめたのは科学ジャーナリストのローレンス・ライトで、1995年に『ニューヨーカー』誌に掲載した記事と1997年の著書『Twins』のなかで、ルイーズ・ワイズ機関から養子に出された複数の双子・三つ子が関与する秘密研究の存在を暴露した。本作でもライトはインタビュアーとして登場し、研究の全体像を解説する役回りを担っている。
ライトによれば、研究成果は一切公表されないまま終わり、ニューバウアーは2007年に死去する前に研究資料一式をエール大学のアーカイブに寄贈し、2065年まで封印するよう指示した。※2映画撮影完了後、シャフランとケルマンのもとには10,000ページ超の「大部分が黒塗り」にされた資料が開示された。※3
撮影手法:三層の視覚言語
ワードルとクラッグは、アーカイブ映像、現在進行形のインタビュー、そして再現ドラマという三つの素材を組み合わせて被写体の物語を構成しており、この手法が観客の期待を裏切り続ける語りの仕掛けと密接に結びついている。撮影はニューヨークを中心に8ヶ月間で4度にわたって行われ、物語の多層性に対応するため各パートで異なる視覚言語を採用し、現代ドキュメンタリーパートにはリアリズムのアプローチを取った。
受賞・評価
2018年サンダンス映画祭でプレミア上映され、U.S.ドキュメンタリー部門・審査員特別賞(ストーリーテリング)を受賞。その後、DGA(全米監督組合)賞でティム・ワードルがドキュメンタリー部門・優秀監督賞を受賞している。本作はサンダンスでの審査員特別賞のほか、クリティクス・チョイス・ドキュメンタリー賞を含む11の賞を獲得し、エミー賞3部門・BAFTA最優秀ドキュメンタリー賞など53のノミネートを受けている。アカデミー賞ドキュメンタリー部門でも候補入りを経た。日本では第31回東京国際映画祭(2018)ワールド・フォーカス部門で上映されました※4。
なお、RAW TV、Film4 Productions、そしてSidney Kimmel Entertainmentが、本作を原案とした劇映画版を共同開発中と発表しており、ティム・ワードル自身はエグゼクティブ・プロデューサーとして参加する予定。
感想
序盤は完全にコメディドラマのようなトーンで進む。初対面の相手に親しげに話しかけられ、キスまでされるというつかみからの三人合流。テンポの良さに引き込まれて、思わずニヤニヤしながら観てしまうほどだ。同時に、序盤からどこか過剰な「同じ」アピールに違和感も差し込まれている。メディアにたくさん出るようになった三人が、自分たちを世間が求める「奇跡の三つ子」像に合わせにいっているように見えてしまう瞬間がある。この違和感は、後半でしっかりと回収されていく。
中盤からは雲行きが一気に怪しくなる。喜びよりも怒りが先に立つ養親たちのインタビュー、その理由が明かされていく流れ、そして登場しないエディ・ガランドの存在感。何かがあったのだろうという気配が、画面の隅々から滲んでくる。物語の組み立てとして、フィクションとノンフィクションのバランスが本当によく取れていた。展開の反転、ラストの結論、そしてエンドロールに至るまで、緩むところがない構成だと思う。
特にゾッとしたのは、研究に関わった人物が当時を笑いながら振り返るシーン。責任感の欠片もない、というのが画面越しに伝わってくる。世の中の暗部を暴いていくジャーナリストの存在意義を強く感じる一方で、真実が当事者の人生にとって救いになるとは限らない、というしんどい余韻が残る。エディの結末はある種の答えにも見えるし、生きている他の二人にこれからどう作用していくのだろうという心配も先立つ。観終わったあと、「世の中知らないことだらけだし、知らないほうがいいことだらけなのだろう」と素直に思わせるドキュメンタリーだった。
他の人の見方
批評家スコアはRotten Tomatoes 96%、Metacritic 81点と非常に高い評価を受けている(出典:Rotten Tomatoes / Metacritic)。ニューヨーク・タイムズのマノーラ・ダージスは「ワードルは流れるように、説得力をもって物語を運ぶが、しばしばその語りが与える答え以上に問いを生み出す」と評している。一方で、ドキュメンタリーとしての演出が「物語化されすぎている」と感じる声も一部にあり、扱う題材の重さへの向き合い方には観客によって温度差があるようだ。
一般視聴者の反応でも、構成の反転を楽しみつつ題材の重さを引き受ける感想が多い。研究そのものに対しては、「実験という軽い言葉で片付けるのはどうか」と踏み込む声もあり、倫理的な問いを正面から受け取る観客が多いことが伝わってくる。「暗い事実を、まるで友人から少しずつ衝撃的なことを打ち明けられるように配分していく」という見方を示した批評もあり、構成の巧みさがこのドキュメンタリー最大の武器だという評価は国内外で一致している。
よくある質問
実話が元になっていますか?
完全な実話に基づいています。ロバート・シャフラン、エディ・ガランド、デヴィッド・ケルマンの三つ子は1980年にニューヨーク州で実際に偶然の再会を果たし、全米のメディアで話題になりました。その後に発覚した秘密の双子・三つ子分離研究もすべて実際の出来事であり、研究資料はいまもエール大学に封印されています。
ニューバウアー研究とはどんなものですか?
精神科医ピーター・ニューバウアーがルイーズ・ワイズ養子斡旋機関と協力し、1960年代から遺伝と環境(nature vs. nurture)を研究するため、同一の遺伝子を持つ双子・三つ子を意図的に経済階層の異なる家庭へ振り分けて養子縁組させ、追跡調査していた。養親たちは「通常の子ども発達研究」が行われていると告げられており、双子・三つ子を対象としていることは伝えられていなかった。研究成果は一切発表されないまま終わっています。
タイトルの意味は何ですか?
英語の原題は Three Identical Strangers(「まったく同じ3人の他人」)です。血のつながった兄弟でありながら、互いをまったく知らない「他人」として19年間過ごしてきた三人の状況を端的に表しています。日本では配信サービスによって『まったく同じ3人の他人』と『同じ遺伝子の3人の他人』という二つの邦題が使われている場合があります。
監督ティム・ワードルの他の代表作は?
ワードルはBAFTAノミネートのドキュメンタリー監督であり、RAW TVのエグゼクティブ・プロデューサーも兼ねる。本作以外の監督作には、一発のパンチが引き起こす連鎖を追ったChannel 4のドキュメンタリー『One Killer Punch』や、ヨーロッパ最大の終身刑刑務所の受刑者を観察した『Lifers』などがある。
続編や関連作品はありますか?
RAW TV、Film4 Productions、Sidney Kimmel Entertainmentが本作を原案とした劇映画版を共同開発中と2018年に発表しており、ティム・ワードルはエグゼクティブ・プロデューサーとして参加する予定とされている。ドキュメンタリーとしての直接の続編はありませんが、三人のその後の人生については複数のメディアが継続的に報じています。
こんな人に
・「氏か育ちか」「nature vs. nurture」というテーマに前から関心がある人
・感動の再会譚から構造的な告発へと反転していくドキュメンタリーが好きな人
・アメリカの研究倫理や養子縁組制度の暗部に関心がある人
・自分のアイデンティティを「家族」と「環境」のどちらに置いて理解してきたか考えたい人
・普段は劇映画ばかり観ていて、ドキュメンタリーには少し遠さを感じている人にも入りやすい一本
関連商品
💿 Blu-ray/DVD
📚 関連書籍
出典
- ※1 Filmarks 配信情報
- ※2 Yale Daily News
- ※3 STAT News
- ※4 TIFF 2018






