視聴方法
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あらすじ
東京湾沖で消息を絶った密輸船から、謎の生存者が現れた。彼の体は半液体状に変質しており、船では乗組員全員が姿を消していた。やがて都内のキャバレー「ホムラ」周辺でも、衣服だけを残した不可解な失踪事件が続発する。生物化学者・政田助教授と警視庁の富永捜査一課長が捜査を進める中、放射能によって誕生した「液体人間」の恐怖が、静かに、しかし確実に街へ広がっていく。
見どころ
円谷英二が生み出した、前例なき液体表現
半透明のゼラチン状の人体が床や壁を這い、触れたものを溶かしていく。「ゴジラ」など怪獣のキャラクター性を主軸にした特撮演出ではなく、あくまでストーリーを進めるための必然から発生する液体人間の映像表現は、さすがの円谷英二も苦心したとされている。「液体生物をどう表現するか、円谷さんも本多監督も、その完全な姿は最後の完成品まで確認することが出来ないという全く苦心惨憺たる現状だった」と本多監督自身が製作時の手記に記している。
音楽を担当した佐藤勝は、液体人間の登場シーンでミュージックソーやグラス・ハープなどを用いてこの世ならざる響きを表現している。映像と音響が相まって作り出す「形容できない不気味さ」は、アナログ手法だからこそにじみ出るものだ。半世紀以上経った今も色褪せない質感がある。
キャバレー「ホムラ」のジャズと昭和30年代の空気
ヒロインの白川由美が演じる歌手・千加子が舞台に立つキャバレーのシーンは、昭和30年代の東京の夜をそのままフィルムに焼き付けた文化記録でもある。ジャズバンドの演奏に乗せてヒロインの歌やセクシーなフロアショーと、捜査陣VSギャング一味の駆け引きが同時進行するキャバレー「ホムラ」のシークエンスは圧巻と本多猪四郎公式サイトも評している。
白川由美が演じる新井千加子の歌声は、ジャズシンガーのマーサ三宅が吹き替えており、声質が白川に似ていると音楽の佐藤勝が判断して起用したものだった。歌唱曲は海外輸出を考慮して英語歌詞となっている。怪物映画でありながら当時の都会のムードがふんだんに盛り込まれており、SFホラーとしてだけでなく一種のタイムカプセルとして楽しめる。
下水道を炎で染めるクライマックス
クライマックスで展開される大規模な液体人間討伐作戦のシークエンスは、ダイナミックなビジュアル、佐藤勝の音楽にテンポの良い編集、そして入り組んだ形状の下水道を再現した出色のミニチュアワークといい、液体人間の描写ともどもその効果は絶大だった。
地上の華やかさとは対照的な地下の恐怖。燃え落ちる炎の赤と、青くゆらめく液体人間の対比は圧倒的だ。エンディングに流れるナレーション「人類が絶滅した時、次に地球を支配するのは液体人間であるかもしれない」には戦慄を禁じ得ない。余韻と奥行きのある幕切れであり、3作品の中でもっとも不穏な終わり方と感じた。
制作背景
東宝「変身人間シリーズ」の第1作として
本作は本多猪四郎監督・脚色木村武・特撮円谷英二によるSFホラーで、東宝「変身人間シリーズ」の第1作。シリーズはその後『電送人間』(1960)、『ガス人間第1号』(1960)へと続く。本多猪四郎・円谷英二・プロデューサー田中友幸の名トリオが、アダルトな雰囲気をも盛り込んだサスペンス映画に挑戦した。
本編カメラは小泉一が担当し、色彩はイーストマン・カラー、音響はPerspecta Stereophonic Sound(擬似ステレオ)で仕上げられた。1958年6月24日に東宝配給で公開された、東宝スコープ(ワイドスクリーン)作品である。
核への恐怖が生んだ設定
本多監督は製作にあたり「東海村の原子炉を見学したり、東大原子核研究所の斉藤理学博士にお話をお伺いして、新生物の誕生も決して不可能ではないと思った」と語っており、液体人間を「核実験下に死の灰を浴び、物理的化学的ショックにより全細胞が液体化した人間」として設定した。
冒頭に登場する漁船「第二竜神丸」は、1954年3月にビキニ環礁の水爆実験で被曝した第五福竜丸事件をモデルにしたことが明らかで、冒頭の核実験映像や新聞記事の大見出しとともに、社会的不安を直接題材化した設定になっている。
原作と脚色
原作者の海上日出男は東宝所属の俳優だったが、本作製作前の『地球防衛軍』の撮影中に死去している。脚色は『ゴジラ』『空の大怪獣ラドン』など東宝特撮を多数手掛けた木村武が担当した。
キャスティング
白川由美は『空の大怪獣ラドン』『地球防衛軍』『妖星ゴラス』など本多作品への出演が多く、水野久美と並ぶ本多作品のマドンナ的存在だ。佐藤允は風貌が似ていることから「和製リチャード・ウィドマーク」と呼ばれ、麻薬ギャング・内田役を演じた。本多演出を支える本編スタッフが照明を絞り、フィルムノワール調の陰影に富んだ映像を作り出している。
「吸血鬼映画」の系譜という視点
本作の液体人間が人間を襲って同族化するという設定は、吸血鬼映画の類型でもあり、従来の怪獣映画のような大規模な破壊描写はなく、液体人間の生物感の描写に特撮の重点が置かれている。変身人間シリーズ3作の中で本作は最もホラー/フィルム・ノワール色が強く、液体人間の内面が一切描かれない唯一の作品でもある。
海外公開とトリビア
アメリカでは『THE H-MAN』のタイトルで英語吹き替え版がコロンビア・ピクチャーズ配給のもとで1959年5月28日に劇場公開された。米国版ではギャングに関するシーンがカットされ、尺が79分に短縮されている。また、クライマックスの下水道シーンを撮影した有川貞昌は、1週間撮影を続けていると船酔いになってしまうほどのセットだったと証言している。
感想
怖い。でも、なぜ怖いかがわからない——それが、この映画の核心だと思う。
放射能を浴びて怪物化するという設定は『ゴジラ』と同じ文脈に乗っている。戦争の傷、核への恐怖、昭和30年代の日本が抱えていた影が、この液体人間という存在にそのまま投影されている。面白いと感じたのが、液体人間に襲われた人間も、同じく液体人間になっていくという連鎖の設定だ。感染症のように指数関数的に増殖していく怪物——当時としてはかなり珍しい発想だったんじゃないかと思う。
よく考えると、その方がよっぽど不気味で恐ろしい。もし対処が遅れていたら、世界中が液体人間だらけになっていた可能性もある。本作ではかなり早い段階で可能性が考慮され対策が打たれていくのだけど、あれ以上広がっていたら収拾がつかなかっただろうし、映画制作の面でも特殊効果をかなりの場面で使わないといけなくなる——そういう制作的な判断も感じた。
ただ、ストーリー展開がいまいちよくわからなかった。なぜヒロイン・千加子の周囲の人間が液体人間に次々と狙われていったのか。可能性として思ったのは、液体人間に変容したギャングの一員が、変身後もキャバレーと千加子に執着し続けているのかもしれないということ。ただ、その辺りが明示されないのが本作の性質でもある。
後続の2作品——『電送人間』と『ガス人間第1号』では怪物側に信念や私怨があったが、本作の液体人間には動機も人格もない。変身すると人間の心も完全に消えてしまっているように見えた。だからドラマとしての推進力は確かに弱い。ただ、それゆえの怖さがある。加害者が存在しない恐怖というのは、怒りや悲しみのぶつけ先がない分、どこまでも不穏に漂い続ける。
終わり方は、3作品の中で一番不穏だった。
他の人の見方
国内の映画レビューサービスでの平均スコアは3.2点(1,043件)で、評価が分かれる作品という位置づけだ。
肯定派が評価するのは円谷英二による液体表現の独創性だ。「CGがない時代に得意の模型・ミニチュア・逆回転など創意工夫を凝らした努力と手間の結晶のような作品」という評価がある一方、当時の世相・風俗・流行を取り入れ、特撮を大人が楽しめる一級のエンタメ映画として製作しようという意図が伝わるとする声も多い。昭和30年代の日本の夜の文化記録としての価値も高く評価されており、キャバレー「ホムラ」のジャズシーンや白川由美の歌唱シーンを讃える声も多い。
一方で否定派からは、液体人間の動機の曖昧さ、本筋と直結しないキャバレーシーン、86分にしては長く感じるテンポの鈍さを指摘する声もある。後続作が変身者の内面・愛憎を主軸に据えたサスペンスとして完成度を高めたのに対し、本作はドラマとしての推進力が弱いと評されることが多い。
よくある質問
原作はありますか?
原作者の海上日出男は東宝所属の俳優で、本作製作前の『地球防衛軍』の撮影中に死去している。その原作を、『地球防衛軍』でも組んだ脚本家・木村武が脚色した。原作は海上日出男による同名短編で、後に「あかしや書房」から小説版が刊行されている。
「第二竜神丸」は実在の事件がモデルですか?
はい。冒頭の漁船「第二竜神丸」が第五福竜丸事件(1954年・ビキニ環礁水爆実験)をモデルにしたことは明らかで、冒頭の核実験映像や新聞の大見出しがその直接的な参照になっている。1950年代の日本社会に広がっていた核実験への恐怖と不安を、怪物の起源として直接物語に組み込んだ作品だ。
英題の「The H-Man」の「H」は何を意味しますか?
「H」はHydrogen(水素)の頭文字で、水爆(水素爆弾 / Hydrogen Bomb)を指している。コロンビア・ピクチャーズが北米向けに配給した際に付けられた英題で、核兵器の恐怖という主題を端的に示している。日本語タイトルの「美女と液体人間」がエンタメ・娯楽路線を前面に出しているのとは対照的に、英題はより社会的・政治的なニュアンスを帯びている。
本多猪四郎監督の他の代表作は?
本多猪四郎は東宝特撮映画を牽引した監督で、代表作に『ゴジラ』(1954)、『空の大怪獣ラドン』(1956)、『地球防衛軍』(1957)、『モスラ』(1961)、『キングコング対ゴジラ』(1962)などがある。晩年は黒澤明監督作品の演出補佐として『影武者』(1980)・『乱』(1985)・『夢』(1990)にも参加し、盟友として知られる。
変身人間シリーズの続編はありますか?
変身人間シリーズは本作に続き、『電送人間』(1960)、『ガス人間第1号』(1960)の2作が製作された。いずれも本多猪四郎監督・円谷英二特技監督・田中友幸プロデュースのトリオ体制。後の2作では変身者の内面——復讐心・信念・愛情——が物語の主軸に据えられており、本作との比較で楽しむと「変身人間」というテーマの広がりがよくわかる。
こんな人に
・『ゴジラ』(1954)に代表される東宝特撮黄金期の世界観が好きな人
・「なぜ怖いかわからない」モヤつく恐怖、サイレントな恐怖が苦手じゃない人
・加害者も動機も存在しない不条理ホラーに惹かれる人
・円谷英二の特殊効果技術、アナログ特撮の極致を体感したい人
・ホラー映画はちょっと怖そうで敬遠していたけれど、昭和の古典作品なら試してみたいという人——86分でサクッと観られる入門作としておすすめできる
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