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REVIEW

『終わらない週末』考察・感想|不安を”体感”させる社会派スリラーの核心(ネタバレなし)

『終わらない週末』—不安が形をもつ前の、いちばん落ち着かない時間

監督・脚本 サム・エスメイル

主演 ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク

製作年 2023年

上映時間 141分

ジャンル ドラマ/心理スリラー

原題 *Leave the World Behind*


※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


目次

視聴方法

本作はNetflixオリジナル映画として、日本では2023年12月8日よりNetflixで独占配信されています。

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あらすじ

ニューヨークに暮らすアマンダとクレイの夫婦は、子どもたちを連れてロングアイランドの別荘へバカンスに出かける。穏やかな休暇のはずが、ある夜、その別荘のオーナーだというG・Hと娘のルースが突然現れる。「都市で大規模なサイバー攻撃が起きた」と告げる見知らぬ男と、外で相次ぐ謎の異変。のどかだった週末は、じわじわと不安に侵食されていく。

見どころ

「不安」を映像で体感させるカメラワーク

大きなドローンが赤いビラをばら撒きながら近づいてくるシーンは圧巻だった。遠くから見ると毒を撒き散らしているように見える。斬新な手法と古典的な手法が混ざり合い、得体の知れない何かが日常に忍び込んでくる独特の空気感が全編を貫いている。

アカデミー賞俳優たちの緊張感ある火花

ジュリア・ロバーツ(『エリン・ブロコビッチ』でアカデミー賞主演女優賞受賞)と、アカデミー賞助演男優賞を『ムーンライト』と『グリーンブック』で2度受賞したマハーシャラ・アリの初共演作。さらにイーサン・ホークは4度のアカデミー賞ノミネートを持つ実力派で、三者三様のアンサンブルが全編の緊張感を底上げしている。登場人物を絞ったことで、ベテラン俳優たちの演技がより引き立ち、一言一言のセリフが重みを持って響いてくる。

ミスリードの連続が生む「人間の心理」への問い

しまわれた銃、動物たちの奇妙な行動、抜け落ちる歯、スペイン語を話す女性、アラビア語のビラ——。これらのうち、異変と関係があるものも、全く関係のないものもある。異常な状況に置かれたとき、人は無関係なものまで怪しく見えてしまう。その人間心理の歪みを丁寧に描いているのが、この作品の核心だ。

制作背景

企画の始まり——入札合戦とオバマ夫妻

Netflixは2020年7月にルマーン・アラムの原作小説の映像化権をめぐる入札合戦に勝利し、サム・エスメイルが監督・脚本に就いた。当初はジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンが主演・製作として参加する予定だった。しかし2021年9月、プロジェクトを降板したデンゼル・ワシントンに代わりマハーシャラ・アリが出演することになり、さらに2022年1月にはイーサン・ホークとマイハラがキャストに加わった。

本作は、バラク・オバマとミシェル・オバマ夫妻のHigher Ground Productionsにとって初の劇映画となる作品だ。オバマ前大統領は原作小説を自身の2021年夏の読書リストに選んでいた。さらに製作過程でエスメイルに脚本へのフィードバックを送るなど、オバマ自身が深く関与している。製作会社はエスメイルのEsmail Corp、ジュリア・ロバーツのRed Om Films、Higher Ground Productionsの共同体制。撮影はトッド・キャンベル(共同撮影監督:ブライアン・ジャクソン)、編集はリサ・ラセック、音楽は『MR. ROBOT』でもエスメイルと組んだマック・クエイルが担当している※1

監督サム・エスメイルの着想——「サイバー攻撃の恐怖を映像化したかった」

エスメイルはNetflixのインタビューで「サイバー攻撃を中心に据えたディザスター映画を作りたいと以前から考えていた。それがどのような状況をもたらすかを具体的に想像できる人はあまりいないと思う」と語っている。原作小説の災害描写がが意図的にぼかされていたことで、そこに自分のサイバー攻撃の構想を重ねることができると確信し、映画化の道が開けたという。

エスメイルはエジプト移民の両親のもとに生まれ、ドットコム・バブルの時代にテクノロジー企業を立ち上げた経歴を持つ。バブル崩壊後に映像編集の世界に飛び込み、やがて自らの作品を手がけるようになった異色のキャリアの持ち主だ。『ホームカミング』(Amazon Prime Video)でも「何が行われているのかわからない」という疑念を観客に持たせ続ける演出が際立ったが、本作でも同様の手法で不安を醸成している。なお『MR. ROBOT』ファンには見覚えのある黄色い緊急用バケツが本作にも登場し、同シリーズの悪の企業E-Corpのロゴが刻まれているという小ネタも仕込まれている。

原作小説と受賞歴

原作は2020年全米図書賞(フィクション部門)のファイナリストに選出され、ワシントン・ポスト、タイム、NPRなど多数のメディアが「年間ベスト」に選んだベストセラー小説だ。※2

驚異的な視聴記録

本作は2023年下半期におけるNetflix全タイトルの中で最も視聴されたコンテンツとなった。1億2,100万再生を記録し、Netflix映画全体の歴代5位に名を連ねる。※3

感想

社会風刺として機能しながら、同時に「人間ってこういうものだよな」という諦めと愛情が同居している。

異常事態が起きたとき、見知らぬ人が突然現れるだけで怪しく見えてしまう。その構図がとにかく面白かった。結局、小さな小屋はこの出来事と全く関係のないものだったし、ケヴィン・ベーコン(『フットルース』などで知られるハリウッドの名優)が演じるダニーの行動もいつもと変わらないものだった。なのに、あの状況の中では全部が「何かの予兆」に見えてしまう。

M・ナイト・シャマランの『ハプニング』(2008)に近い感触がある。得体の知れない何かがじわじわと日常を侵食してくる感じ。ただ今作の場合、明確な原因がある。それでもその原因を「毒のような何か」として不気味に表現しているのがうまい。

娘が「フレンズ」の最終回をずっと見られずにいる、というエピソードが妙に刺さった。それを「存在しなかった時代を懐かしむ感じ」と見下す少女のセリフ。空想の世界に浸るのではなく現実を見ろ、ということ。そのテーマが、最後に閉ざされた空間へと繋がっていく構図は、皮肉が効いていて見事だった。

セリフの一つ一つが意味深で、「今何が起きているか」だけでなく「この人は今何を考えているのか」という個人の感情にまで興味が湧いてくる。身近な問題と世界の問題が地続きになっている感覚。それをシンプルな設定でここまで描けるのかという驚きがあった。

明確な答えを求める人には向かないかもしれない。でも、このモヤモヤと不安の余韻こそが、今の時代に正直な表現なのだと思う。

よくある質問

原作はありますか?

原作はルマーン・アラムによる2020年の同名小説で、著者自身も本作の製作総指揮に名を連ねている。全米図書賞フィクション部門ファイナリストのほか、オーウェル賞2021年のファイナリストにも選ばれ、発表当時から大きな話題を呼んだ。映画版はサイバー攻撃の描写などオリジナルの要素が加えられており、小説とは一部異なる。

映画版ではサイバー攻撃が中心に描かれますが、それは原作にもある設定ですか?

原作小説の災害描写は意図的にぼかされており、エスメイルが「サイバー攻撃の構想を重ねることで映画の物語が視覚的に広がった」と語るように、サイバー攻撃は映画版のオリジナル要素だ。核心にある「危機的状況で露わになる人間の本性」というテーマは原作から忠実に受け継がれている。

監督サム・エスメイルの代表作は?

エスメイルは『MR. ROBOT』(Mr. Robot)の生みの親として知られ、ハッカーと巨大企業の闘いを描いたそのドラマで一躍注目された。映画では2014年の長編デビュー作『COMET コメット』も知られ、本作はエスメイルにとって長編映画2作目となる。

ジュリア・ロバーツとサム・エスメイルは初タッグですか?

ジュリア・ロバーツとエスメイルが組むのは、Amazon Prime Videoで配信されたドラマ『ホームカミング』(2018〜2020年)以来となる。そのドラマでの信頼関係が、今作の共同製作という形にも繋がっている。

続編の予定はありますか?

現時点でNetflixから続編の公式発表はなされていない。本作は原作小説を基にした単発作品であり、映画は小説と一部異なる点はあるものの、物語の核心は原作に倣っている。オープンエンドな結末が考察を呼ぶ構造になっているため、続きを「想像すること」そのものが作品体験の一部と言えるかもしれない。

他の人の見方

本作に対しては「人間中心の社会への風刺が効いている」「人里離れたシチュエーションでよくここまで表現した」と映像表現を評価する声がある一方、「パニック映画が冒頭30分で片付ける部分をずっと見せられる」と展開の単調さやオチへの不満を表明するレビューも目立つ。賛否が真っ二つに割れる本作だが、それもまた、この映画が観客の「不安との向き合い方」を試しているからかもしれない。

こんな人に

・『ハプニング』や『ゲット・アウト』のような、不安がじわじわ高まる社会派スリラーが好きな人
・派手なアクションより、人間の心理や関係性のドラマに惹かれる人
・ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホークなど、演技派俳優たちの緊張の火花を見たい人
・結末よりも「その過程」や「余韻」、そして考察を楽しめる人
・スリラー映画をあまり観たことがないけれど、激しい暴力描写は避けたい——そんな人でも、緊張感ある心理描写を入口に映画の面白さを体感できる一作

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