視聴方法
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あらすじ
思い描いていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送る小西(萩原利久)。学内唯一の友人・山根や銭湯のバイト仲間・さっちゃんとは、他愛もないことでふざけあう日々。ある日の授業終わり、お団子頭の桜田(河合優実)の凛々しい姿に目を奪われた。思い切って声をかけると、拍子抜けするほど偶然が重なり急速に意気投合する。
会話が尽きない中、「毎日楽しいって思いたい。今日の空が一番好き、って思いたい」と桜田が何気なく口にした言葉が胸に刺さる。その言葉は、奇しくも半年前に亡くなった大好きな祖母の言葉と同じで、桜田と出会えた喜びにひとり震える。ようやく自分を取り巻く世界を少しだけ愛せそうになった矢先、運命を変える衝撃の出来事が二人を襲う。
喜びと絶望が交互に押し寄せる中で、小西はこの世界で「生きること」を少しずつ実感していく——。
見どころ
「環世界」を映像で表現する大九明子の演出
場面や感情の移り変わりが妙に唐突で、感情が高ぶると画面が顔に異常なほど寄ってくる。観ていると「あれ、変だな」と戸惑う瞬間が幾度も訪れる。これは失敗ではなく、意図だ。
大九明子は、『勝手にふるえてろ』(2017)や『私をくいとめて』(2020)など、繊細な人間描写と独特の映像センスで定評のある監督。本作では、その作家性がさらに研ぎ澄まされている。これまで女性の内面を丁寧に描いた作品で高い評価を得てきたが、本作では初めて男性主人公の恋愛物語に挑戦しており、その挑戦が独特の緊張感を生んでいる。
人物の内側から見えている世界を徹底的に優先した演出——。整理されず、加工されず、観客のために媚びない映像。それがこの映画の核心だ。場面によってスクリーンのサイズを変えてまでも伝えようとする監督の強い意志、そして劇伴なしで違和感なく画面上に音楽を配するセンスの良さも、この映画の際立った特徴のひとつとして挙げられる。
河合優実と伊東蒼、2人の演技がぶつかり合う
河合優実演じる桜田花の存在感は圧倒的で、「彼女を浴びるための映画」との声が上がるほど。Filmarks Awards 2025では、河合優実が本作と『あんぱん』での活躍をもって、クリエイター部門・俳優ベストFan!賞を受賞している。
大九明子監督は、『勝手にふるえてろ=松岡茉優』『私をくいとめて=のん』のように、俳優の魅力を引き出すことにきわめて長けた監督でもある。本作でも河合優実・伊東蒼の魅力が存分に引き出されている。
もうひとりの主要人物「さっちゃん」を演じる伊東蒼との直接的な絡みはほぼないにもかかわらず、画面を通してバチバチの緊張感が漂う。TAMA映画賞の選評では、萩原利久の演技について「鋭い感受性を持ち偶然の恋に一喜一憂する主人公を、光と影を巧みに織り交ぜた演技で表現した」と称されている。2人の演技の温度差こそが、この映画の核心をつくっている。
ジャルジャル福徳秀介の私小説が原作という驚き
原作は、関西大学の卒業生でもあるお笑いコンビ「ジャルジャル」のツッコミ担当・福徳秀介が、母校・関西大学を舞台に4年もの月日をかけて執筆した小説デビュー作(2020年、小学館刊)。「関大に通っていたからこそ書けた小説。大学4年間の経験や思い出を、この小説にぎゅっと詰め込みました」と福徳自身が語っている。
著者自身の私小説を思わせる恋愛小説でありながら、「生きる」ことそのものについても考えさせられる内容となっており、ベストセラーとなった。映画の撮影地も原作の舞台である関西大学千里山キャンパスが中心で、関西の空気感がそのままスクリーンに漂う。主題歌はスピッツ。なお、福徳自身は中学生時代からスピッツが好きで、新曲が出るたびに歌詞をノートに書き出していたというエピソードも持つ。主題歌の起用は偶然ではないかもしれない。
制作背景
お笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介が2020年に発表した恋愛小説を、『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』の大九明子監督が映画化した作品。
映画公開(2025年4月25日)に合わせ、原作は小学館文庫として文庫化もされた。
製作体制は、吉本興業・NTTドコモ・スタジオ&ライブ・日活・ザフール・プロジェクトドーンによる製作委員会方式で、製作幹事は吉本興業、制作プロダクションはザフール、配給は日活。
スタッフ面では、撮影を中村夏葉、照明を常谷良男、編集を米田博之が担当。俳優たちの内面を捉える緻密な撮影ワークは、「環世界」的な演出の核を形成している。劇伴なしで音楽をラジオやデモなど劇中の自然音として取り込む手法も、命をめぐる社会の動きをさりげなく作品に溶け込ませるための意図的な選択だ。
キャストは、主人公・小西徹を演じるのは、映画化もされたドラマ「美しい彼」シリーズで人気を集める萩原利久。ドラマ「不適切にもほどがある!」や映画「ナミビアの砂漠」などで若手実力派としてブレイクした河合優実がヒロインの桜田花に扮した。共演は伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太ら。
受賞歴は充実している。2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門に正式出品。第17回TAMA映画賞では、作品が<特別賞>を受賞するとともに、萩原利久が<最優秀新進男優賞>を受賞し、W受賞を達成した。Filmarks Awards 2025でも国内映画部門優秀賞に選出されている。さらに第35回日本映画プロフェッショナル大賞のベストテン第9位、2025年度「全国映連賞」において伊東蒼が女優賞を受賞している。
感想
かなり挑戦的で特殊な映画だ。観終わってから原作が福徳秀介(ジャルジャル)の小説だと知って衝撃を受けた。でも、そう言われると妙に納得してしまうところもある。
私はこれを、「映画」という形式そのものをメタ的に捉えたうえで再構築した作品だと受け取った。このあたりを言語化し始めるとかなり長くなるのだが、つまるところ——めちゃくちゃ簡単に言うと、この映画は「環世界」を表現した作品だ。
ひきこもっていた小西徹(萩原利久)が、久しぶりに登校した教室で一人ぼっちの桜田花(河合優実)を見つけ、その仕草に惹かれていく。出会い方は偶然すぎる気もするが、そこは置いておこう。問題はそこからの描き方だ。
一般的な映画は、観客に伝わりやすいように感情や状況を整理して見せる。一方で本作は、その整理をあまりしない。だから場面や感情の移り変わりが唐突に見えるし、演出や編集に違和感を覚える瞬間もある。けれど、それこそがこの映画の狙いなのだと思う。描かれているのはあくまで「彼らが見ている世界」であって、観客のために加工された世界ではない。だから媚びていないし、どこか生々しい。
冒頭はいかにも恋愛映画のような空気が漂う。しかし主人公に絶望が訪れると、まるで別の映画のように見えてくる。それはジャンルが変わったのではなく、主人公が見ている世界そのものが変化したからだ。同じ出来事でも、人によって——あるいは状態によって——まったく違う意味を持つ。そのズレや揺らぎを、映画の構造そのもので表現しようとしているように見えた。
つまりこれは恋愛映画というより、この世界を生きることについての映画だ。人を好きになり、傷つき、失うことを知り、自分自身の感情を自認していく。その過程を徹底して主観的に描いている。監督自身は、恋愛そのものよりも「人が世界をどう認識しているか」に関心があったのではないかと思う。
途中、演出や編集に不気味さがあって「これってもしかして怖い映画になるのか?」と思っていたら、本当にその方向へ進んでいって驚いた。ただ、それは映画そのものが怖くなったのではなく、主人公の視点で世界が怖くなったということに過ぎない。この区別はかなり重要だと思う。
最後の会話シーンの、カメラのどアップ。普通ならあそこまで寄らない。映画としては少し不自然な距離感だ。でも桜田花や小西徹の世界を優先した結果、あの構図になったのだろう。そこに強い感情が生まれ始めたからこそ口元にフォーカスが当たる。それは桜田の感情の昂りを表現しつつ、彼女に引き込まれていく小西が見ている世界をそのまま視覚化したものだ。
河合優実がジャケットに大きく描かれているので、彼女と萩原利久の映画かと思って観始めたが、そうではなかった。萩原利久演じる小西徹が、桜田花とさっちゃんという2人の女の子に精神をぐちゃぐちゃにされながら世界を実感していく映画だった。河合優実と伊東蒼という若手女優のバトルがたまらない。直接対峙するシーンはほぼないのに、互いの演技の熱量が萩原利久を通してバチバチに激突している感じだった。
ギリギリの綱渡りでもある。下手をすれば気持ち悪い映画になりそうなところを、自分はギリギリ受け入れられた。ただ一点、さっちゃんに悪いのは分かっている、と言い訳しながら告白するシークエンスだけは正直受け入れられなかった。神経どうなっとるん、と思った。あのあたり自体、かなり狂っている。
消化しきれていない部分はある。それでも、この映画でしか味わえない不思議な体験ができたことは確かだ。こういう映画を作る勇気と根性に、純粋に敬意を感じている。
他の人の見方
本作に対する観客の反応は、賞賛と困惑が入り混じる振り幅の大きいものとなっている。高評価のレビューでは、構成の妙と河合優実・伊東蒼の演技を強く評価する声が目立つ。特に伊東蒼が演じるさっちゃんの長台詞シーンについて、「あのシーンを見れただけで満足」という声が複数見られた。「ほぼ会話劇だけでストーリーを伝えている演出センス」を高く評価する声も多い。
一方で、「2時間超の尺がやや長い」「中盤以降の展開が好みを分ける」「コント的なやり取りが浮く場面もある」といった批判的な意見もある。TAMA映画賞の選評が本作を「人を好きになることの痛みを溢れ出る言葉に込めて、心に深く突き刺した」と評したように、感情に刺さるかどうかが評価を大きく左右する作品といえる。
よくある質問
原作はどんな小説ですか?
原作は、お笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介が4年もの月日をかけて執筆した小説デビュー作(小学館、2020年刊)。母校・関西大学を舞台にした自伝的色彩の強い恋愛小説で、著者自身の私小説を思わせる内容でありながら、「生きる」ことそのものについても問い直す作品となっており、ベストセラーとなった。映画公開にあわせ小学館文庫として文庫化もされている※1。
タイトルにはどんな意味がありますか?
「今日の空が一番好き、って思いたい」というのは、ヒロイン・桜田花が何気なく口にする言葉であり、亡き祖母が口癖にしていた言葉と同じであることが物語の転機となる。「今日」という現在に全力で存在することを肯定しようとする感覚——それが主人公の成長と呼応する、作品の核心をなすフレーズだ。タイトルに「とまだ言えない僕は」という留保が付いている点も重要で、その言葉を言える自分にまだなれていない主人公の現在地を示している。
監督・大九明子の他の代表作は?
大九明子監督の代表作には、『勝手にふるえてろ』(2017・松岡茉優主演)、『私をくいとめて』(2020・のん主演)、NHKドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023)などがある。登場人物の内面独白を映像化することを得意とする作家性の強い監督として知られており、本作もその系譜に連なる。いずれの作品も「うまくいかない自分」と向き合う人物を温かく、かつ鋭く描いているのが共通する特徴だ。
受賞歴はありますか?
2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門に正式出品。第17回TAMA映画賞では作品が特別賞、萩原利久が最優秀新進男優賞を受賞するW受賞を達成。Filmarks Awards 2025では国内映画部門優秀賞に選出され、第35回日本映画プロフェッショナル大賞ベストテン第9位、2025年度「全国映連賞」では伊東蒼が女優賞を受賞している。
萩原利久・河合優実・伊東蒼の主な出演作は?
萩原利久は、映画化もされたドラマ「美しい彼」シリーズで広く知られる。河合優実は、ドラマ「不適切にもほどがある!」や映画「ナミビアの砂漠」などで若手実力派としてブレイクした俳優。伊東蒼は、映画『由宇子の天秤』(2021)や映画『ケイコ 目を澄ませて』(2022)などでも注目を集めており、本作でのさっちゃん役はキャリアを代表する演技のひとつとして評価されている。三者ともに現在の日本映画シーンを牽引する若手実力派だ。
こんな人に
・「恋愛映画」という枠に収まらない、構造的に変わった映画の考察をしたい人
・大九明子監督の『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』が好きな人
・河合優実・萩原利久・伊東蒼など、今の日本映画を牽引する若手俳優たちの演技を一気に浴びたい人
・「生きること」や感情の実感を映像で問い直したいと思っている人
・ストーリーよりも「空気感」や「体験」として映画を楽しみたい人——普段あまり映画を観ない人にこそ、意外な発見があるかもしれない
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