視聴方法
主要VODおよびサブスクリプションサービスでの配信は2026年6月時点で確認できない。国内版Blu-ray(2018年5月18日発売・2枚組・KADOKAWA)が主な視聴手段となっている。DISC1が約203分、DISC2が約114分の2枚構成で、特典映像(約38分)も収録。購入リンクは記事末尾の関連商品セクションを参照。
あらすじ
神戸に暮らす30代後半の4人の女性——看護師のあかり、専業主婦の桜子、学芸員の芙美、そして純。長年の親友だと思っていた彼女たちの関係は、純が密かに離婚調停を進めていたことが明らかになったとき、静かにバランスを崩していく。有馬温泉への旅行、ワークショップ、朗読会、それぞれの日常を行き来しながら、「私は本当になりたかった私なの?」という問いが4人を揺さぶる5時間17分の群像劇。
見どころ
「演じていない」ように見える4人の女性
主演4人——田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら——は全員が職業俳優ではなく、それぞれ別の仕事を持つ一般人だ。2015年、ロカルノ国際映画祭で4人は最優秀女優賞を同時受賞した。演技未経験の4人が日本人として初めてこの賞に輝いた快挙だった※1。受賞時、田中幸恵は「この賞は私たち4人だけでなく、出演者全員でとれたと思っています」と4人の枠を超えた喜びをコメントしている※2。
画面の中の彼女たちが「演じていない」ように見える理由は、彼女たちが実際にほとんど演じていないからだ、と言えるかもしれない。彼女たちはプロの俳優ではなく、ワークショップを通じて集まった一般参加者が長期間のリハーサルを経て撮影に臨んだ。この事実が、作品のテクスチャーを根本的に規定している。感情処理が「磨かれすぎていない」俳優たちの顔は、観客に考える余地を与える。
「聞くこと」と「本読み」から生まれた濱口演出
濱口竜介(『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー国際長編映画賞を受賞した映画監督)の演技論の核には「聞くこと」がある。ワークショップは「人に聞く」ことをテーマに、自分が興味のある人のところへ行きインタビューするところから始まった。そこから生まれた「聞く力」を俳優たちが身につけていたことが、画面上の会話の密度を生み出している。
撮影における具体的な演出手法として採用されたのが「本読み」だ。濱口はジャン・ルノワールの演技指導にならい、感情・イントネーション・抑揚をすべて排して台本を何度も読み重ねるという方法を取り入れた。8ヶ月の撮影期間を通じて、キャストは本読みをして現場に立つことのプロフェッショナルになっていった。台詞なのか本音なのかが画面の中で滲んでいく、この映画固有の不思議な質感はそこから来ている。この「テキスト読み」メソッドの原型が、まさに『ハッピーアワー』の撮影現場で実践された。
5時間17分という長さの必然
編集段階では3時間20分版と3時間50分版も制作されたが、濱口は317分版を選んだ。その理由は「3時間に切ったとしても、映画は別種の重さを帯びてしまう」という確信だった。長尺は妥協の産物ではなく、この映画が世界を作る方法そのものだ。
感動的なシーンの後に退屈な時間が来て、また何かが動く。その繰り返しが、登場人物の時間を本物の時間として感じさせる。この5時間超の上映時間は耽溺ではなく周到な戦略——他の映画が切り捨てる場面を映し出し、日常の瞬間に可能性を充填し、通常の長編映画では得がたい感情的な密度を生み出すための——であると、MoMAのプログラムノートでも指摘されている。
制作背景
「聞くこと」を学ぶワークショップから映画へ
本作のコンセプトは、2013年9月から2014年2月にかけてKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)で開催された「濱口竜介 即興演技ワークショップ in Kobe」から生まれた。演技未経験者を含むあらゆる背景を持つ人々を対象としたワークショップで、3回のオーディションを通過した合計17名が参加した。
仮タイトルは『BRIDES(花嫁たち)』。撮影は2014年5月にスタートし、8ヶ月の撮影期間の中で第6稿まで大幅な改稿を重ね、第7稿が最終稿となった。脚本はワークショップ期間中に並行して執筆された。濱口、野原位、高橋知由の3名による「はたのこうぼう」名義での共同執筆で、「3人で書くことで、1人では生み出せないキャラクターが出てくる」と高橋は語っている。
撮影を担当した北川喜雄は東京藝術大学大学院映像研究科出身で、濱口との協働は『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』『親密さ』に遡る。音楽は蜷川幸雄作品の劇音楽を数多く手がけてきた阿部海太郎が担当した。
クラウドファンディングによる資金調達
製作資金が底を突きそうになったため、制作段階においてMotionGalleryでのクラウドファンディングが行われた。1ヶ月以内に目標の300万円を達成し、最終的には465万円の資金を調達した。このインディーズ映画が世界の映画祭を席巻することになろうとは、支援者自身も予想していなかっただろう。
国際映画祭での受賞歴
受賞歴は以下のとおり。2015年・第68回ロカルノ国際映画祭(Concorso Internazionale部門)最優秀女優賞および脚本スペシャル・メンション。同年・第37回ナント三大陸映画祭コンペティション部門「銀の気球」賞(準グランプリ)および観客賞。同年・シンガポール国際映画祭アジア長編映画コンペティション部門最優秀監督賞。さらに2016年のアジア太平洋スクリーン・アワード(APSA)では、濱口竜介、野原位、高橋知由の3名が脚本賞を受賞した。
公開後の海外展開も目覚ましく、フランスでは10万人動員の大ヒットを記録した。プロデューサーなし・演技未経験キャスト・クラウドファンディング調達という体制から生まれた映画が、世界で観客を掴んだ事実は、濱口が後に『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ脚本賞とアカデミー国際長編映画賞を受賞する布石となった。
感想
5時間17分の映画を観たことがなかった。
長い、とまず正直に思った。でも、長いと感じていいと思う。感動的なシーンの後に退屈な時間が来て、またその緊張がほぐれて、また裏切られる。この映画にどう向き合えばいいのかわからなくなる瞬間が何度もあった。そして、そのわからなさが、画面の中の登場人物たちのそれとぴったり重なっていることに気づく。彼女たちもまた、この世界とどう向き合えばいいのかわからないまま生きているのだ。
気持ちのよくない映画だった、と思う。誰も気持ちよく生きていない。ただ一人、自分に素直に生きている純の姿だけが、すごく素敵に見えた。
特に胸を打ったのは、バスの中で出会った見知らぬ女性と純が言葉を交わすシーンだ。赤の他人に対して、純が今の自分の状況を打ち明ける。その女性が語る父親の、ストーリーとはまったく関係のないよくわからない話が、なぜかすごくいいと感じた。フィクション性が弱まって、現実と非現実の境界が曖昧になる。その女性の表情と話し方が、その人の性格をそのまま映しているような、ひどく自然な姿だったのが何より良かった。
どの意見も正しいし、間違っている。世界はそんなに単純じゃない。この映画もそう。
他の人の見方
国際的な批評家からの評価は高い。ロカルノ映画祭での受賞を経て、本作は濱口の「慎重で、急がない、精密に観察するスタイル」を国際的な観客に知らしめた作品となった。ニューヨーク近代美術館(MoMA)でも上映され、「ほぼリアルタイムで流れるような吸引力のあるシーン群を持ち、小説的な深みとテクスチャーを備えている」「映画というメディアにしか生み出せない、没入型で強烈に感動的な体験」と評された。
国内の観客の声としては、「長かったという感覚よりも、誰かの人生をしばらく一緒に生きていたような感覚が残る」「5時間を超える上映時間にも関わらず全然キツくなかった」といったレビューが並ぶ——5時間17分という長尺にもかかわらず人物描写の秀逸さで観客を引き込む濱口の手腕を示す言葉だ。
よくある質問
原作小説や原作漫画はありますか?
『ハッピーアワー』は完全なオリジナル脚本作品であり、原作となる小説や漫画は存在しない。脚本は濱口竜介、野原位、高橋知由による共同執筆で、ワークショップの参加者との対話や即興演技の中から積み上げられていった。なお、制作過程と演出論を記した書籍『カメラの前で演じること 映画「ハッピーアワー」テキスト集成』(左右社)が刊行されており、映画のシナリオも収録されている。
タイトル「ハッピーアワー」にはどんな意味がありますか?
バーやレストランで飲み物の割引サービスが提供される「ハッピーアワー」という時間帯になぞらえたタイトルだと考えられている。仮タイトルは『BRIDES(花嫁たち)』だった。映画を観終えた後、その意味がじわりと変容して感じられるタイトルであり、「なんて真逆なタイトルだろう」と思って観始めた観客が、鑑賞後に「これ以外のタイトルはあり得ない」と感じたという声も多い。
濱口竜介監督の他の代表作は何ですか?
濱口は東京大学と東京藝術大学大学院の出身で、『ハッピーアワー』(2015・ロカルノ)、『寝ても覚めても』(2018・カンヌ)、『偶然と想像』(2021・ベルリン)と、世界三大映画祭それぞれのコンペティション部門に作品を送り込んだ。『ドライブ・マイ・カー』(2021)ではカンヌ国際映画祭脚本賞およびアカデミー国際長編映画賞を受賞し、日本映画監督として世界的な地位を確立している。
主演4人は映画出演後もキャリアを続けていますか?
4人はいずれも本作出演前は職業俳優ではなかったが、ロカルノでの受賞をきっかけに注目を集めた。川村りらはその後、野原位監督の『春原さんのうた』(2022)にも主演し俳優活動を継続している。本作への出演と受賞は4人それぞれにとって大きな転機となった。
受賞歴を教えてください。
第68回ロカルノ国際映画祭(2015)にて最優秀女優賞(主演4人が同時受賞)および脚本スペシャル・メンション。第37回ナント三大陸映画祭(2015)にて「銀の気球」賞(準グランプリ)および観客賞。シンガポール国際映画祭(2015)にてアジア長編映画コンペティション部門最優秀監督賞を受賞。2016年のアジア太平洋スクリーン・アワード(APSA)では脚本賞も受賞している。
こんな人に
・濱口竜介監督の出発点を知りたい人。『ドライブ・マイ・カー』の前にこの映画がある
・「演技とは何か」という問いに興味がある人。職業俳優ではない4人が世界の映画祭で賞を取った理由を自分の目で確かめてほしい
・女性たちの友情と関係性の揺らぎを丁寧に描いた物語が好きな人
・長尺映画・インディーズ映画を掘り下げたい映画好き
・映画をあまり観ない人でも、日常の会話や表情にリアルさを感じる作品が好きなら、きっと引き込まれる瞬間がある
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