視聴方法
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あらすじ
政府への不満が爆発したアメリカ。19の州が分離独立を表明し、「西部勢力(WF)」と政府軍による内戦が続いている。そんな中、ベテラン戦場カメラマンのリー、記者のジョエル、大ベテランの記者サミー、そしてリーに憧れる駆け出し写真家のジェシー——4人のジャーナリストは大統領への直接取材を目指し、ニューヨークから首都ワシントンD.C.へと向かう。距離にして約1,400km。法律が機能を失い、何が起こるかわからない道を、4人は進んでいく。
見どころ
「何が起きても不思議じゃない」恐怖
ホラー映画とは違う怖さ、がある。内戦下のアメリカでは法の支配が消え、治安は自治に委ねられている。穏やかな空気が漂っていたのに、次のシーンでは突然戦闘が始まる。その緊張と緩和の繰り返しが、観ているこちら側の感覚を少しずつ削っていく。誰が敵かもわからない混沌の中で、人間がどう動くかを鋭く突きつけてくる。
ロードムービーとして機能する1,400km
4人の旅はある種のロードムービーだ。ただし、決して穏やかではない。道中で出会う人々——積極的に戦う者、日常を守ろうとする者、無法状態を自分の論理で利用する者——それぞれが異なる「内戦の断面」を見せてくれる。単純な政府軍対反乱軍の構図ではなく、もっとカオスな現実として。長い旅をともにするからこそ、4人のキャラクターへの感情移入が深まっていく。
ジャーナリストの視点が生む「静止画」の衝撃
動画より静止画の方が、ときにライブ感を強く伝える。本作ではジェシーが撮るモノクロの写真が編集的に挿入され、フィクションのリアリティを一段と引き上げる。戦場カメラマンという職業を通じて描かれる「何かを撮ること」の意味——その問いが、映画全体を通じて静かに、しかし確実に積み上がっていく。
制作背景
A24史上最大の賭け
本作はA24にとって製作費約5,000万ドルという史上最大の自社製作作品だ。同社はそれまで低予算・高品質路線で知られていたが、本作はその戦略を大きく転換する一手となった。A24がワイドリリースで最高の初週末を記録したそれ以前の作品は、アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』(2018)の1,350万ドルだった。本作はオープニング週末に2,570万ドルを叩き出し、A24映画として初めて全米興収No.1を獲得、同スタジオの初週末興収記録を塗り替えた。なお、IMAX上映がオープニング興収の48%を占めた。
最終的な全米興収は約6,200万ドルに達し、世界興収は1億2,700万ドル超と、A24史上『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(1億4,340万ドル)に次ぐ歴代2位の成績を収めた。※1
撮影手法——ジャーナリスティックな映像美
主要撮影は2022年3月15日にアトランタで「Road Trip」というコードネームのもと開始された。同年5月には、製作拠点がロンドンへと移された。
監督アレックス・ガーランドと撮影監督ロブ・ハーディは5本目の長編映画でのコラボレーションとなり、著名な報道写真家の視点でドラマを切り取るというアプローチを核に据えた。メイン撮影機材はSony VENICE 2とα7S IIIが主軸で、DJI Ronin 4Dが一部のシーンに使用された。※2
クライマックスのD.C.攻防戦はとりわけ規模が大きい。ワシントンD.C.を舞台にしたクライマックスには数か月の準備期間が費やされ、ガーランドとハーディは、プロダクションデザイナーのケイティ・マクセイ、VFXスーパーバイザーのデヴィッド・シンプソン、ミリタリー監修のレイ・メンドーサ、スタントコーディネーターのジェフ・ダッシュノーらと連続的な円卓会議を重ねた。ワシントン市街の戦闘シーンはジョージア州ストーン・マウンテンで、ホワイトハウス突入シーンはアトランタのタイラー・ペリー・スタジオで撮影された。※3ガーランドは本作を時系列順に撮影するという大胆な判断を下した。
キャスティング裏話——ジェシー・プレモンズはほぼ奇跡だった
本作でもっとも強烈な印象を残すシーンを演じたジェシー・プレモンズのキャスティングは、事実上の偶然によって生まれた。ダンストは、撮影開始数日前に当初のキャストが降板したことを受け、夫のプレモンズをガーランドに推薦した。ガーランドは後のロサンゼルス・タイムズ誌のインタビューでこう振り返っている。「通りに立っていたら電話が来て、”ああ、まずい”と思った」と。「あれは見事な幸運だった」とガーランドは語る。※4ダンスト自身もSeth Meyers番組への出演時に「誰もこの役はやりたくない。非常に強烈だから」と明かしている。
本作には、カンヌ国際映画祭でそれぞれ実績を持つキルスティン・ダンストと、彼女の夫でもあるジェシー・プレモンズという現実のカップルが共演している。二人は2021年の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でともにアカデミー賞ノミネートを受けており、本作が3度目の共演となった。また、ケイリー・スピーニーは本作と並行して『プリシラ』(ソフィア・コッポラ監督)の主役オーディションを受けており、撮影最終日に役を獲得したことをダンストに報告したという。
監督の意図と「引退」発言
テキサスとカリフォルニアという政治的に対立する州を同盟させた設定については「両極化政治を超える脅威とは何か、観客に問わせるため」と語っている※5。
ガーランドはインタビューで本作を前作『MEN 同じ顔の男たち』の姉妹編と位置づけ、「未来の不定の時点——現在の政治的分断への寓話として機能するぎりぎりの距離感——を設定している」と語っている。
ガーランドはThe Guardianのインタビューで、本作の完成をもって当面の監督業から退き、脚本執筆に専念する意向を示した。その後の活動として、ダニー・ボイル監督のもとで『28 Years Later』の脚本を執筆していることも明らかになっている。※6
受賞・ノミネート
英国インディペンデント映画賞(BIFA)の最優秀音響賞を受賞。サターン賞では最優秀スリラー映画賞および最優秀編集賞にノミネートされた。また、2024年の報知映画賞では最優秀外国映画賞を受賞している。
感想
目頭が熱くなってた。残酷な映画を観て、そうなるとは思わなかった。
内戦の詳細は、ほとんど描かれない。なぜ戦争が始まったのか、どちらが正義なのか——そういう「説明」を本作は意図的に省く。代わりに映し出されるのは、無政府状態がもたらす”可能性”の数々だ。法律が機能を失った社会で、人間はどう動くのか。その心理描写が、鋭くスタイリッシュに、そして容赦なく描かれていく。
ホラー映画よりよっぽど怖かった。突然始まる戦闘。誰が敵かもわからない混沌。そして「What kind of American are you?」という尋問シーン。アメリカ的とは何かを日本人の自分にはうまく言語化できないけれど、あの質問のニュアンスは、なんとなく伝わってくる。アメリカの分断が、あのシーンに凝縮されていた。
4人のキャラクターへの感情移入がとにかく強かった。1,400kmという大移動がロードムービー的な構造を生み出し、旅を通じて少しずつ彼女たちの内面が見えてくる。特にジェシーの存在が素晴らしい。観ている自分は最初、ジェシーの視点に一番近いところにいる。でも終盤、そのジェシーすら自分たちとは違う場所へ行ってしまう。
逆に、リーは徐々にこちら(鑑賞者)側になっていく。
その構造に気づいた瞬間、ぞっとした。
写真として切り取られる戦闘シーン——動画より静止画の方がライブ感・臨場感を感じさせる、というのは本当にそうで、モノクロの静止画が挿入されるたびにフィクションのリアリティが増していく感覚があった。
「人は誰かの屍の上に立っている」。そのことを、具体的なビジュアルとメタファーの両方で表現しきった映画だと思う。あらゆる要素——キャラクター、ストーリー、場面転換、音楽、演出——が一体となって機能していた。残酷なのに、目が離せない。
鳥肌が立つほど皮肉的なラストシーン。あの強烈な締め方は、もはやカッコよくて痺れてしまった。
ただ、アメリカ人であればもっと何かを感じられただろうな、とも思う。自分には届いていない文脈があるはずで、そこは少し悔しかった。
※ここから、結末に触れます。これから観る方はご注意ください。
リーとジェシーが、入れ替わっていく
中盤、サミーが命を落とす。あの瞬間、リーの中で何かが決定的に折れた。彼女はサミーを撮った写真を削除する。「撮るべきものを撮る」という戦場カメラマンの矜持を、彼女自身の手で否定した瞬間だ。そこから、リーはどんどん「観ているこちら側」に近づいてくる。カメラを向けるのが怖くなった人間として。
一方、ジェシーは逆の方向へ走り出す。最初は震えていた彼女が、終盤では危険を顧みずシャッターを切り続ける。感覚が麻痺していく、あるいは麻痺させることでしか前に進めない、人間の極限状態。アドレナリンが彼女の表情を別人に変えていく。本作の最も恐ろしいところは、戦闘シーンではなく、ジェシーがジェシーでなくなっていく瞬間にあると思う。
そして、最後の戦闘で、リーが銃弾に斃れる。ジェシーは——悲しまない。彼女はその姿を撮る。リーがしてきたことを、ジェシーがそのまま受け継いでいく。「人は誰かの屍の上に立っている」というこのタイトルにも引いた言葉が、ここで具体的なビジュアルとして突き刺さってくる。リーはサミーの死を撮影し、ジェシーはリーの死を撮影する。継承の連鎖そのものが、本作のメタファーになっていた。
大統領の陳腐な最期、陽気な音楽、笑顔の兵士
ホワイトハウスに突入したジェシーは、無表情のまま大統領に銃口を向ける兵士たちを撮る。大統領の最後の言葉は、驚くほど平凡で、陳腐だった。あれだけの権力を持っていた人間の最期が、たった一言の懇願に集約されてしまう。その平凡さが、本作の最も冷たい一撃だった。
そして極めつけが、ラストカット。陽気な音楽が流れるなか、笑顔の兵士たちが大統領の遺体を囲むようにポーズを取る写真——その静止画が、少しずつ画面に浮かび上がってくる。記念撮影。あれは戦勝の証ではなく、人間がここまで麻痺できるという証だ。
陽気な選曲(Suicideの「Dream Baby Dream」が本作で果たす役割を、私はあのシーンを観たあとで知った)と、画面の中の暴力との不協和。あの皮肉の冷たさに、最後まで震えた。カッコいい、と思ってしまった自分にも震えた。 それを「カッコいい」と感じさせる映画作りそのものが、観客への問いかけになっている気がする。
他の人の見方
Rotten Tomatoesでは81%、CinemaScoreはB−を記録している。批評家からは迫真の体験性とキルスティン・ダンストの演技が高く評価されており、「意図的に不安を掻き立てるつくりで、危機に瀕した国に生きることの暴力的な不確かさを鋭く描いている」という評がある※7。また「内戦の”原因”を描かない」という選択については、ジャーナリスト視点という主題と結びつけて形式的な必然性を擁護する論調が多い。
SXSWプレミア後の反応でも「同時代を定義する戦争叙事詩」として称える声がある一方、政治的に中立なアプローチを問題視する声も上がった。
一方で、キャラクター造形の薄さへの指摘や、テキサスとカリフォルニアという対立する州を同盟させた設定を「政治的回避」と評する声もある※8。
よくある質問
原作はありますか?原作小説や実話が元になっていますか?
本作はアレックス・ガーランドによるオリジナル脚本であり、特定の原作小説や実話には基づいていない。ただし現代の政治的緊張や歴史上の武力紛争から着想を得ており、民主主義の脆弱性や有事における報道の役割といったテーマが通底している。
タイトル『シビル・ウォー アメリカ最後の日』にはどんな意味がありますか?
「シビル・ウォー(Civil War)」は文字通り「内戦」を意味し、近未来のアメリカで勃発した第二次内戦を指している。日本語副題「アメリカ最後の日」は、物語の終着点——大統領府陥落という政治的終焉——を示唆するとともに、ある時代の「終わり」を記録するジャーナリストたちの役割を象徴している。テキサスとカリフォルニアという政治的に対立する州が同盟を結ぶ設定は、現在の政治的分断への寓話として機能する距離感を意図的に置いたものだとガーランド自身が語っている。
監督アレックス・ガーランドの他の代表作は?
ガーランドはスクリーン作品として『エクス・マキナ』(2014)、『アナイアレイション-全滅領域-』(2018)、『MEN 同じ顔の男たち』(2022)、そしてHuluドラマ『DEVS』(2020)を手がけてきた。監督業以前は脚本家として『28日後…』(2002、監督:ダニー・ボイル)や『SUNSHINE 太陽』(2007、監督:ダニー・ボイル)を執筆した実績を持つ。本作後は監督業を一時休止し、ダニー・ボイル監督作『28 Years Later』の脚本を担当している。
本作に続編の予定はありますか?
現時点で続編の制作は発表されていない。ガーランド自身もThe Guardianとのインタビューで本作をもって当面の監督業から退く意向を示しており、本作は独立した一作として完結している。物語の構造上も、すべての主要な問いがラストシーンで回収されており、続編を想定した結末にはなっていない。
受賞歴はありますか?
英国インディペンデント映画賞(BIFA)の最優秀音響賞を受賞し、同年の報知映画賞(日本)では最優秀外国映画賞を受賞している。サターン賞では最優秀スリラー映画賞および最優秀編集賞にノミネートされた。興行面でも大きな評価を得ており、A24映画として初めて全米興収No.1に輝いた。
こんな人に
・政治や社会の分断に関心があり、映画でそれを体感したい人
・ホラーは得意じゃないけど、緊張感のある映画が好きな人
・写真やジャーナリズムに興味がある人
・『エクス・マキナ』や『アナイアレイション-全滅領域-』でアレックス・ガーランドの世界観にハマった人
・アクション映画をあまり観ない人でも、心理描写やキャラクター中心の物語として楽しめる作品なので、「難しそう」と感じている人にもおすすめ
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出典
- ※1 Screen Daily
- ※2 Y.M.Cinema Magazine
- ※3 Screen Rant
- ※4 Uproxx
- ※5 Empire
- ※6 IndieWire
- ※7 Rotten Tomatoes
- ※8 Paste Magazine







