視聴方法
本作は2018年9月1日に日本公開された。Prime Video・Hulu・TSUTAYA DISCASほか複数のVODサービスで取り扱いがある(2026年6月時点)。見放題・レンタルの区分や最新の配信状況は、各サービスのページで要確認。
あらすじ
大阪に住む朝子(唐田えりか)は、自由気ままな青年・麦(東出昌大)に出会い、深く恋に落ちる。しかし麦はある日突然、姿を消してしまう。2年後、東京で働く朝子は会社員の亮平(東出昌大)と出会う。亮平の顔は、消えた麦と瓜二つだった。同じ顔を持つ二人の男性の間で揺れ動く朝子は、やがて麦の記憶を振り切り、亮平と向き合おうとする。しかし、ある日突然、麦が彼女の前に再び現れる。朝子は、果たしてどちらの男を選ぶのか——愛の正体を問う恋愛ドラマ。
見どころ
東出昌大の二役が問いかけること
濱口監督は東出昌大について、「『桐島、部活やめるってよ』を観たり、バラエティー番組で話している東出さんを見て、いい兄ちゃん的なイメージが強くて。亮平役にめっちゃ合っているんじゃないかと。見た目という点でも、麦でも全然いけちゃうみたいな気持ちでいた」と語っている。同じ顔を持つ麦と亮平を一人で演じ分けることで、「人を好きになることは何を好きになることか」という問いを、俳優の身体そのもので可視化した試みだ※1。顔が同じなのに、まるで別の存在に見えてくる奇妙な感覚が、映画全体を覆う浮遊感を生み出している。
現実と夢のあいだに漂う演出
濱口監督自身は、「原作に惹かれたのも、細密な現実描写と同時に、『全く同じ顔の男』という荒唐無稽な設定があったから」と語っている。「麦も亮平も、現実的には明らかに誰がどう見たって東出さんであるにもかかわらず、別の人間なんですと映画では強弁する。あからさまな嘘なんだけど、それを信じるところから始めてもらっていいですかと観客に迫る」という。唐突な出会い、唐突な喪失、唐突な再会——「なぜそうなるのか」が説明されないまま物語が進んでいく。その”説明のなさ”が、夢の中を歩いているような独特のリアリティを生む。睡眠と覚醒の境界が曖昧になるように、現実と非現実の境涯そのものを映画体験として差し出してくる。
震災という静かな背景
物語の背後には東日本大震災がひっそりと横たわっている。映画の中では、劇場でイプセン『野鴨』を観ている亮平のそばで、漆黒の闇の中に突然地震が起きる場面がある。唐突にやってくる非日常が、あの日の経験と地続きに響いてくる。濱口監督は、柴崎友香の小説における日常描写の細密さに惹かれたと語りながら、「この物語で魅了されたのは、同じ顔の二人の男に恋をするという不条理さだ」と説明している。
制作背景
商業映画デビューへの道
東京藝術大学大学院修了作品『PASSION』(2008年)以降、10年以上インディペンデントを舞台に創作活動を続けてきた濱口竜介が、満を持して初の商業映画に挑んだ一作。
濱口監督は、「短編映画『天国はまだ遠い』(2016)が、職業俳優を相手に自分の演出手法を確認する場になっていた。それを経て商業映画の『寝ても覚めても』(2018)に挑戦できた」と語っている。前作『ハッピーアワー』(2015年)が非職業俳優を起用したワークショップ発の実験的長編だったのに対し、本作では職業俳優とともにその演出メソッドをスケールアップして臨んだ。
「本読み」という独自の撮影手法
濱口は毎日現場に入ると俳優を集め、「電話帳読み」と呼ばれる手法をとらせる。これからの撮るシーンを、ニュアンスを一切込めず抑揚を排して読む——「いったんそれを捨てさせる」ことで、役者をフラットな状態にし、テキストだけを身体に入れ、ニュアンスの発生は現場にまかせる。自然な反応を引き出すためだ、と濱口は語る。※2
また監督はカンヌの公式資料の中で、『ハッピーアワー』(原題:Senses)のように撮影中に脚本を発展させていくスタイルをあえて捨て、今回は脚本を厳密に守ることに徹した、と明かしている。※3
映像・音楽・スタッフ
撮影監督・佐々木靖之によるシネマトグラフィは、クリーンなフレーミングと脱彩色されたトーン(特に序盤のクリーム・ベージュ・イエロー系の色調)が特徴的で、全体として突き放したような観客体験をもたらす。
音楽・主題歌は神戸在住のtofubeats(トーフビーツ)が担当。主題歌「RIVER」はワーナーミュージック・ジャパンよりリリースされた。本作がtofubeatsにとって初めての映画音楽担当作品となった。また、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)らが脇を固め、田中美佐子、仲本工事も出演している。脚本は田中幸子と濱口監督の共同執筆。製作はメ〜テレ(名古屋テレビ放送)とビターズ・エンドが主導し、フランスのCOMME DES CINÉMASが参加した日仏合作。国際セールスはMK2 Filmsが担当した。
原作について
原作は柴崎友香(大阪を拠点に活動する作家)の同名長編小説。2010年に雑誌『文藝』夏号に掲載されたのち、同年9月に河出書房新社より刊行され、第32回野間文芸新人賞を受賞した。※4原作では、麦と亮平が「似ている」という要素はあるものの、年齢や身長などに相違点があり、瓜二つと思っているのは朝子だけかもしれない、という思いが読者に付きまとう。映画版は東出昌大が二役を演じることで、この「瓜二つ」という部分に重きが置かれている。
受賞歴
2018年5月、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式選出された。同年のパルム・ドール受賞作は是枝裕和監督『万引き家族』であり、本作もその競合作として並び立った。その後、第42回山路ふみ子映画賞を受賞、唐田えりかが新人女優賞を受賞して2冠を達成。さらにヨコハマ映画祭では6冠を獲得し、唐田えりかが新人賞を受賞した。※5。第92回キネマ旬報ベストテンでは邦画部門第4位を獲得。1位に推した選考委員数では全作品中最多の9名が本作を挙げており、映画評論家から突出した支持を集めた。また第28回日本映画プロフェッショナル大賞では監督賞(濱口竜介)とベストテン第2位を受賞している。
感想
正直に言う。観終わっても、よくわからなかった。
でもそのもやもやが、ずっと胸のどこかに引っかかり続けている。こういう映画を「わからない」と片付けるのは簡単だ。けれど、その「わからなさ」が意図的に設計されているとしたら?
濱口監督はたぶん、ストーリーを”伝える”ために映画を作っていない。映画という体験そのものを観客の身体に刻もうとしている。唐突すぎる出会い、唐突すぎる失踪、唐突すぎる再会——普通なら「雑」と感じるはずのそれが、夢の論理として妙に納得できてしまう。現実的なことを非現実的に見せることで生まれる浮遊感。それが「寝ても覚めても」という題名に、じわりと繋がってくる。
個人的に怖かったのが、亮平の豹変だ。いつもとは違う顔を見せる瞬間の”非現実感”と、でもそうなっても不思議ではないという”現実感”が、同時に押し寄せてくる。そのアンビバレントな感触こそ、この映画の核心なのかもしれない。
ただ、映画にストーリー性やリアリティを求める自分の性分からすると、やはり素直には乗り切れなかった。終盤の台詞(これが妙に説得力を持っていた)で、もやもやが全部正当化されてしまったような感覚もある。それが技巧なのか、逃げなのか、まだ判断できていない。
それでも、今後も濱口監督の作品は観てしまうだろうと思う。そういう引力がある。
他の人の見方
映画評論の世界では、非常に高い評価を受けている作品だ。第92回キネマ旬報ベストテンで邦画4位を獲得し、1位票を最多の9名から集めた事実がそれを物語っている。第10回TAMA映画賞では、是枝裕和『万引き家族』と並んで最優秀作品賞をダブル受賞した。※6
カンヌ国際映画祭コンペティション選出を受け、欧米の批評家の目にも止まった。その一方で、Hollywood Reporter誌はカンヌ評で「ありふれた形式の、奇妙に旧式な恋愛描写」と手厳しい評価を下しており、評価が割れていることも事実だ。
一般観客の声でも、「東出昌大の演技の魅力が光る」「フィクションとしての面白さがある」という共感の声がある一方で、「朝子と麦には人間味がなく、幽霊のような雰囲気すら感じる」と独特の世界観に困惑する声も根強い。評論家評価と一般観客評価のあいだにはっきりとした温度差が生じている作品でもある。
よくある質問
原作小説はありますか?
原作は柴崎友香による同名長編小説。2010年に雑誌『文藝』夏号に掲載ののち、同年9月に河出書房新社より刊行された。第32回野間文芸新人賞を受賞した作品で、2014年5月には河出文庫にて文庫化されている。映画公開に合わせて、森泉岳土による漫画とコラボした書き下ろし番外篇「同じ街の違う夜」を収録した増補新版が2018年6月に河出文庫から発売された。
タイトル「寝ても覚めても」にはどんな意味がありますか?
「寝ても覚めても」は日本語の慣用句で、「どんな状態にあっても、常に」という意味。英題は Asako I & II(「朝子 その一・その二」)と翻訳されており、同じ顔の二人の男に恋をする主人公の二重構造を指している。英語の字義的な訳は “Whether asleep or awake”(眠っていようと覚めていようと)であり、現実と夢、意識と無意識の境界が曖昧になるような本作の映画体験と深く響き合うタイトルだ。
監督・濱口竜介の他の代表作は?
『ドライブ・マイ・カー』(2021年)が国際的に高い評価を受け、米アカデミー賞と世界三大映画祭のすべてで受賞を果たした。これは日本人監督としては黒澤明に次いで2人目の快挙。他に、2015年公開の『ハッピーアワー』(原題:Senses)はロカルノ国際映画祭で2賞を獲得した。短編集『偶然と想像』(2021年)もベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞している。
受賞歴を教えてください
2018年の第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式選出。山路ふみ子映画賞で作品賞と唐田えりかの新人女優賞の2冠を達成。ヨコハマ映画祭では6部門を制した。また第28回日本映画プロフェッショナル大賞では監督賞(濱口竜介)とベストテン第2位を受賞している。国内の映画評論家から最も評価された作品のひとつであることは、受賞歴からも明らかだ。
東出昌大の二役はどのように演じ分けられていますか?
柴崎友香(原作者)は東出について「ここにいるんだけど、同時に別の世界も見ているみたいな存在感がある」と語り、それが麦にも亮平にも通じると分析した。役を演じ分けるにあたって濱口監督は、現場での「電話帳読み」でニュアンスを一度リセットし、役者をフラットな状態にしてから撮影に臨む手法をとった。その結果として、視覚的には同一人物でありながら別の存在に見えてくる不思議な感覚が生まれている。
こんな人に
・濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』や『ハッピーアワー』が好きな人
・説明されない余白を、自分なりに埋めていく映画体験が好きな人
・「人を好きになるとはどういうことか」という問いをずっと持ち続けている人
・カンヌや世界の映画祭で話題になった日本映画を追いかけている人
・恋愛映画は苦手だけど、恋愛を”テーマ”として扱った静かな作品なら観られる、という人
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