視聴方法
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あらすじ
1998年公開のドキュメンタリー映画『A』の続編。地下鉄サリン事件から4年半後、教団施設を追われ日本各地に拠点を分散して活動する出家信者たちと地元住民の対立と融和、右翼との交流などを描く。テレビ報道では切り取られにくい信者と近隣住民のやり取り、麻原彰晃の三女・松本麗華の素顔、信者と旧友の対話など、「悪」と一括りにされてきた人々の個別の顔を丁寧に映し出す。「完全版」では、2002年の劇場公開時に諸事情でカットされた部分をすべて再現した構成となっている。
見どころ
メディアが映さない「日常」のすき間
前作『A』が広報副部長・荒木浩への密着を主軸とした作品であるのに対し、『A2』は「教団」と「社会」それぞれの接点を生々しく追うことで、存立する両者を描いた作品といえる。報道では攻撃的な対立の場面が主に切り取られるが、このカメラは信者と市民が穏やかに会話するすき間を丁寧に拾い続ける。「オウム=悪」という記号の外側に、個人と個人の関係がちゃんと存在していることを、静かな反論として提示している。
松本麗華という「普通の女の子」
麻原彰晃の三女・松本麗華の登場シーンは、撮影当時に未成年だったため2002年の劇場公開時にはカットを余儀なくされていたが、完全版で15年ぶりに復元された。自己紹介で告げた名前、学校への思い、罵倒の看板が並ぶ道を穏やかに歩く姿——彼女が置かれた状況と、そこでの態度の間にあるギャップが、静かに胸を打つ。
信者と記者、「なぜ?」と問い合う夕暮れ
かつて同じ部活にいた2人が、一方は信者として、もう一方は記者として向き合う。ドラマ的な設定でありながら完全な事実。それぞれが信じるものを持ち、互いに「なぜ?」と問いかける。夕日を背にしたその場面は、ドキュメンタリーの考察として何度も立ち返りたくなる、フィクション以上の強度を持つシーンだ。
制作背景
本作は2001年に撮影・製作され、2002年3月に劇場公開された『A2』を、2015年に再編集・復元した「完全版」である。
前作『A』を完成させた直後、森達也は「オウムについての自分の表現は終了した」と断言していた。しかし1999年9月、撮影終了から2年半の長い断絶を経て、森は再びカメラを手に、退去直前の足立区のオウム施設を訪れた。「3年前には、ここまで日本社会が急速に劣悪化するとは思わなかった」と語ったのが、本作誕生の直接的な動機だ。
森は大手メディアとまったく異なる位置にカメラを置き、一人で撮影することで、日本社会のもうひとつの姿をドキュメンタリーとして捉えた。監督・撮影・編集のすべてを森達也と製作者の安岡卓治の2人が担っている。「人々にカメラを向けたときに出てくる人間味」を捉えることを志向するその姿勢は、報道やジャーナリズムとは一線を画す、森独自のドキュメンタリー手法として国内外から評価されている。
森は『A』『A2』の撮影を通じて、日本社会の急激な変化を「集団化」として肌で感じていた。危機意識を高揚させた集団が連帯を求め、同調圧力を強め、異物を標的にしていく——その原点を伝えたいという思いが、完全版の公開につながった。
完全版は京都国際映画祭2015で上映され、翌2016年6月、森監督の新作ドキュメンタリー『FAKE』の公開を記念して、東京・ユーロスペースにて初の劇場公開となった。
受賞歴:2001年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で市民賞・特別賞のW受賞。2002年度「映画芸術」ベスト・テン第8位、「キネマ旬報」ベスト・テン第23位にも選出されている。※1
また、前作『A』はベルリン国際映画祭への正式招待を果たしており、本シリーズは日本のドキュメンタリー映画史において特異な位置を占める。2023年には初の劇映画『福田村事件』を公開するなど、森の作家的射程は今なお広がり続けている。
感想
前作『A』を観たあとに続けて手を伸ばした作品です。前作があまりにもよかったから、という理由で。結果として、こちらのほうがさらに深く刺さった。
前作との最大の違いは、森と信者たちの距離感の変化だと思います。3年という時間が積み重なって、カメラの前での緊張がほぐれている。森が現れると笑顔で話しかけてくる信者たち。森のほうも、信者がよく使う”現世”や”教義”といった言葉を使いながら、冗談混じりのツッコミを入れる。それを笑って受け入れる信者たちの様子が、どこか微笑ましい。「取材者と対象」という構図が、もう少し違う何かになっているように見えた。
なぜ森がここまで内側に入っていけたのか。観ていると、その理由が少しずつ見えてくる気がします。裏表のない正直さ、メディア側でもオウム側でもないフラットな立ち位置、そして表情を変えずに堂々としている姿。空っぽな器のように相手を受け入れる態度が、警戒心の強い人々に「この人は違う」と思わせたのではないか。人間関係というのは、主義主張よりも先に、こういう皮膚感覚で動くのだとあらためて考えさせられる。
印象的なシーンを2つ挙げたい。
ひとつは、麻原彰晃の三女が登場する場面。英語で自己紹介をするとき、いちばん好きな自分の名前で名乗ってと頼まれ、ホーリーネームの”アーチャリー”ではなく”松本麗華”と答える。綺麗な名前だし気に入っているから、と。学校に行きたかったという話の流れの中で、彼女はずっと普通の女の子として映し出されている。罵倒の看板が立ち並ぶ道を、何事もない様子で穏やかに談笑しながら歩くシーンもある。置かれた環境と、そこでの彼女の態度の間にある強いギャップ。それを眺めながら、受け入れるということの強さについてしばらく考えた。
もうひとつは、信者が大学の同級生の記者に取材を受けるシーン。同じ部活にいた2人が、一方は信者に、もう一方は記者になって向き合う。立場上は対立関係なのに、会話は対話に近い。昔を思い出しながら感慨深そうな2人の表情。それぞれが「なぜ?」と問い合う。自分にとっての”善”が、誰かにとっての”悪”になりうる——前作『A』でも信者が世界の”矛盾”を語るシーンがあったが、ここでもその矛盾が静かに浮かび上がる。夕日に照らされた2人の姿がドラマチックで、ドキュメンタリーがフィクション以上の強度を持つことを、改めて痛感させられた。
本作の考察として繰り返し浮かんでくるのは、信者たちが自分たちの立場を客観的に把握しているということです。世間の反応に対して理解を示しながら、それでも自分たちの信仰を手放さない。その矛盾した状態を彼ら自身が受け入れているように見える。
この映画を観てオウムという集団を肯定できるようになるわけでは、おそらくない。でも、信者一人一人に対する印象はまるで変わる。「悪」という記号の向こうに、それぞれの顔を持った人間がいる。それを知ること自体が、何かを問い直す出発点になりうるのだと思います。
偏見を持たず手を伸ばしてほしい作品という気持ちに、素直にそうだと頷いている。
他の人の見方
「前作より踏み込んだ内容で考えさせられた」「メディアリテラシーを問い直される」という評価がある。一方で、「オウムという題材への心理的ハードルがある」「前作『A』を先に観てから臨んだほうがよい」という声もある。また、ドキュメンタリー監督の松江哲明は、森監督の手法を「報道とは異なり、人々にカメラを向けたときに出てくる人間味を捉えようとするもの」と評している。※2
よくある質問
前作『A』を観ていないと楽しめませんか?
前作未見でも本作単体として鑑賞できる内容ですが、前作『A』では広報副部長・荒木浩への密着を通じて教団内部の空気感が描かれており、それを踏まえると本作で信者たちとの距離感の変化がより鮮明に伝わります。2作続けて観ることで、森達也監督がこの取材を通して何を問おうとしていたのかが立体的に見えてくるため、順番に観ることを強くおすすめします。
「完全版」とオリジナル版(2002年公開)の違いは何ですか?
最大の違いは、麻原彰晃の三女・松本麗華の登場シーンが復元されている点です。撮影当時に未成年だったため2002年の劇場公開版ではカットを余儀なくされましたが、完全版ではそのシーンが15年ぶりに収録されています。本作における松本麗華のシーンは感想でも述べた通り本作の核心のひとつであり、完全版こそが「作品として完成した形」と言えます。
映画のタイトル「A2」には何か意味がありますか?
「A」はオウム(Aum)の頭文字であると同時に、前作『A』の続編であることを示す「A2」というナンバリングです。また、シリーズを通して森達也がオウム問題を「A(一作目)」「A2(二作目)」と記号的に冷静に位置づけることで、感情的なレッテル貼りとは距離を置く姿勢が表れているとも読めます。なお、後に森は著書のタイトルを『A3』としており、この問題への眼差しが三部作として継続したことがわかります。
監督・森達也の他の代表作は?
森達也は1998年に『A』を公開後、2016年に『FAKE』、2019年に『i -新聞記者ドキュメント-』、そして2023年に初の劇映画『福田村事件』を公開している。一貫して「メディアが映さないもの」「社会の同調圧力」をテーマに据え続けており、本作『A2 完全版』はその出発点に位置する作品です。
受賞歴はありますか?
2001年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞しています。※3また、2002年度の「映画芸術」ベスト・テン第8位、「キネマ旬報」ベスト・テン第23位にも選出されており、日本のドキュメンタリー映画として異例の評価を受けた作品です。※1
こんな人に
・前作『A』を観て続きが気になっている人
・メディアの「報道されないもの」に関心がある人、メディアリテラシーを深めたい人
・「善悪」の二項対立に違和感を覚えている人
・ドキュメンタリーがフィクション以上にドラマチックになる瞬間を体験したい人
・社会問題への関心があれば、普段ドキュメンタリー映画をあまり観ない人でも十分に入り込める内容です
関連商品
📀 本作のDVD
📀 前作『A』DVD

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