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『VOID』考察・感想|24分で証明した「虚無」の怖さ(ネタバレなし)

映画『VOID』の場面写真

監督・脚本 岩崎裕介

主演 野内まる

共演 平井まさあき(男性ブランコ)/大石水月/伊藤歌歩 ほか

製作 NOTHING NEW

制作プロダクション 東北新社

製作年 2023年

上映時間 約24分

ジャンル ホラー/短編

劇場公開 2024年2月16日(短編集『NN4444』の1編として)


※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


目次

視聴方法

ロッテルダム国際映画祭やサンフランシスコ国際映画祭など数々の映画祭に出品され、日本では短編集『NN4444』の1篇として2024年2月に劇場公開を果たした本作。岩崎裕介の初長編『チルド』(2026年7月17日公開)の公開記念として、YouTubeのNOTHING NEWチャンネルにて2026年4月3日〜6月30日(予定)の期間限定で無料配信された※1。ロッテルダム・サンフランシスコの両国際映画祭に選出された作品が、24分・無料・公式チャンネルで観られた期間は終了しているが、ファミリー劇場などでのTV放送実績もある。見逃した方は各種配信サービスや放送スケジュールをチェックしてほしい。

あらすじ

不慮の事故で友人を亡くした高校生・麻木の周囲でおかしな現象が起こりはじめる——。誰も声を荒げない。何かが派手に起きるわけでもない。けれど、空気のどこかが静かに歪んでいく。

ある日、カフェで一人の男(平井まさあき)と向き合うことになる。コーヒーをかき混ぜながら交わされるその会話の中で、麻木は——そして観客も——日常の奥に潜む「見えない何か」の輪郭にうっすらと触れることになる。説明されているようで、されていない。それなのに、何かがわかった気がする。そんな奇妙な感覚だけが残る、約24分の不条理ホラー。

見どころ

01. 抽象と具体の絶妙なバランス——「説明しない」ことの技術

ホラー映画の天敵は「説明しすぎ」だ。説明した瞬間、恐怖は消える。この作品はその落とし穴をギリギリで回避している。不気味な現象は抽象的なまま提示されるが、カフェで交わされる二人の会話——コーヒーをかき混ぜながら淡々と語られるあのシーン——で、観客はひそかにすべてを「理解」している。見えているようで見えない、その塩梅が見事だ。

02. CMディレクター仕込みのカット術——24分に無駄はない

岩崎裕介は63rd ACC CREATIVITY AWARDSフィルム部門にてグランプリを受賞するなど、作家・演出家としても高い評価を受けるCMディレクター。その研ぎ澄まされたカット感覚が本作でも全開で、差し込まれるシーンの選び方、間の取り方、わずかなセリフのリアリティに、無駄がまったくない。24分という尺の中に、必要なものだけが置かれている。

03. 「会話劇 × 静的な異物感」という岩崎裕介の作家性

岩崎裕介の持ち味は、会話劇を中心とした「静的で異物感のある演出」。本作はその看板を、たった24分で凝縮して見せた1本だ。激しいカメラワークも、派手なBGMもない。ただ椅子に座って話す二人の人物だけで、空気の温度がじわじわ下がっていく。長編『チルド』を観る前にこの短編を押さえておくと、岩崎の「核」がはっきり見える。

制作背景

NOTHING NEWという映画レーベル

本作を製作したのは、「才能が潰されない世の中」を目指して2022年に設立された映画レーベル「NOTHING NEW」(代表:林健太郎)。映画レーベルNOTHING NEWの最初の作品として製作されたのが、4人の監督と4人の主演女優がタッグを組んだホラー映画短編集『NN4444』だ。2022年の設立以来、短編映画を中心に国内外の映画祭へ作品を送り出してきたNOTHING NEWにとって、後の長編『チルド』は初の実写長編作品であり、三大国際映画祭での初受賞となる。

『VOID』は2023年12月8日(金)、NOTHING NEW初のオリジナル作品として、オンライン映画自販機「NOTHING NEW」で初公開された。その後、2024年2月16日に劇場版短編集『NN4444』の1編として劇場公開されている。

キャストとスタッフ

出演は野内まる、大石水月、伊藤歌歩、若杉凩、神嶋里花、安藤聡海、金子岳憲、平井まさあき(男性ブランコ)、池田良、門間航、大熊花名実ほか。企画・プロデュースに林健太郎・鈴木健太、プロデューサーに井上淳・長束雄介。PM:丸毛麻貴・安藤健。編集:大森優希(OND°)。制作プロダクション:東北新社。

主演の野内まるは2002年9月7日生まれ、神奈川県出身。ユマニテ所属の俳優。本作公開後もキャリアを急加速させており、2025年にはNetflixドラマ「阿修羅のごとく」、TBSドラマ「御上先生」、WOWOW「災」などに出演。映画でも2025年映画「アンダーニンジャ」に出演している。

岩崎裕介本人は1993年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。CMディレクター/映画監督として活動しており、2017年に東北新社に入社。初長編『チルド』の製作にあたっても、『VOID』で組んだ制作陣が再集結。前作『VOID』でも制作プロデューサーを務めた井上淳・長束雄介、編集を担当したOND°大森優希が再び名を連ねている。

受賞歴・映画祭歴——初監督作として破格のスタート

『VOID』の映画祭歴は以下のとおり:第53回ロッテルダム国際映画祭 Tiger Competition部門選出、第67回サンフランシスコ国際映画祭コンペティション部門選出、レインダンス映画祭 2024 the LOST VENTURES Programme 公式上映・Best Short of the Festival 入選、ヴェネツィアショートイタリア映画祭 セミファイナリスト 公式上映、リスボン国際インディペンデント映画祭 2024 International Competition部門選出。

ロッテルダム国際映画祭は、アメリカ国内最古と言われるサンフランシスコ国際映画祭(今年で67回目)と並ぶ、世界的に権威ある映画祭。初監督短編が、これだけ複数の国際映画祭を席巻した事実は、本作の温度感を物語っている。

短編から長編へ——『チルド』と岩崎裕介の軌跡

岩崎はその後、初長編映画『チルド』を製作。主演に『寄生獣』や『爆弾』など話題作に出演する染谷将太、『寝ても覚めても』や「極悪女王」などの唐田えりか、『古畑任三郎』シリーズの西村まさ彦を迎えたコンビニを舞台のホラー作品。第76回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に正式出品され、国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞。NOTHING NEWにとって三大国際映画祭での初受賞となった。

FIPRESCI賞は、世界各国の映画批評家で構成される国際映画批評家連盟が選出する賞で、芸術性や革新性、映画表現としての挑戦を重視する国際的に権威あるアワード。過去には相米慎二監督『あ、春』、行定勲監督『リバース・エッジ』などが受賞している。

『VOID』で見えた「静的な異物感」が、長編という尺の中でどう伸びていったのか——その答え合わせのために、まずこの短編を観ておく価値は十分にある。

なお、岩崎はYouTube無料配信に際し「およそ2年前に作りましたが、悲しいかな今の時代のほうがしっくりくる作品になっている気がします」とコメントを寄せた。

収録作品一覧(『NN4444』)

『NN4444』は以下の4作品で構成される。「犬」は「彼女はひとり」の中川奈月が監督、「彼方のうた」「PLASTIC」の小川あんが主演を務めた。「Rat Tat Tat」は監督・佐久間啓輔×主演・錫木うり、「洗浄」は監督・宮原拓也×主演・夏子、「VOID」は監督・岩崎裕介×主演・野内まる。「VOID」がロッテルダム国際映画祭短編コンペティション部門、「洗浄」がクレルモン=フェラン国際映画祭国際コンペティション部門に選出されるなど、各作品が海外から注目を集めた。

感想

「虚無で抗う」——そんな言葉がずっと頭の中をぐるぐるしていた。

この映画を観て、まず感じたのは「仕組みがいい」ということ。不気味なものが発生する理由、その根源を、説明するでもなく、ただ抽象的に見せていくだけ——のように見える。でも実は、カフェのシーンでものすごく丁寧に説明されている。コーヒーをかき混ぜながら交わされる会話で、視覚的にも、感覚的にも、「ああ、そういうことか」がじわっと染み込んでくる。

この二重構造が本当に面白かった。抽象的に見える映画でありながら、その背景には具体的な理由がちゃんとある。だからバランスがいい。説明しすぎると怖くなくなるのがホラーの宿命だけれど、この作品はその一線を踏み越えない。不安をずっと煽り続けながら、「わかった気がする」という感覚だけを残していく。

カットも上手い。差し込まれるシーンの選び方、間の取り方、セリフのリアリティ。CMで鍛えられた感覚というのは、こういうことか、と。無駄がなく、でも冷たくもない。広告で人を一瞬で説得してきた人だから、24分でこれだけのことが詰められる。

平井まさあき——男性ブランコの平井——のキャスティングも効いていた。お笑い芸人の人懐っこさを纏ったまま、するっと不気味な側にすべり込んでいく。あの距離感は、純然たる俳優にはたぶん出せない。日常の中に、ふっと別の世界の人間が紛れ込んでくる感覚。

一方で、黒沢清(『回路』『岸辺の旅』などで知られる日本ホラーの巨匠)の短編『Chime』を観たときにも思ったことを、ここでも感じた。ホラーは短編が強い。長くなればなるほど、怖さを維持するのが難しくなる。慣れが生まれ、ダレが生まれる。この作品の構造を長編に持ち込んだとき、それをどう乗り越えるか——『チルド』がベルリン国際映画祭でFIPRESCI賞まで取ったという事実は、その問いに対する一つの答えだ。短編で見えた核が、長編でも折れずに伸びている。

24分という尺の中で、これだけのことをやってのけた。実験的な短編として、かなり手応えのある1本だった。そして、観終わった後にいちばん残るのは、怖さよりも「もっとこの監督の作品を観たい」という渇きのほうかもしれない。

他の人の見方

「静かにずっと不穏。虚無に飲み込まれて、貼り付けられたような毎日に閉じ込められた感じがして怖かった」「もぅ狂おしいほど黒沢清」など、日常の温度が静かに落ちていく怖さを評価する声が並ぶ。ジャンプスケアに頼らない独特の不穏さと、観た後も頭に残り続ける構造的なロジックへの言及が多い。

「うっかり傑作に出会ってしまった」と評する映画ブログもあり、YouTubeでの無料配信を機に発見したという感想が多数見受けられた。「この世界観と思考実験作品はかなり好み」という声も、本作の構造——不気味さと理屈の同居——から滲み出るものだろう。

海外でも評価は早く、ロッテルダム国際映画祭 Tiger Competition部門選出、サンフランシスコ国際映画祭コンペティション部門選出に加え、レインダンス映画祭ではBest Short of the Festivalに入選するなど、初監督短編としては異例の映画祭歴を持つ。

よくある質問

タイトル「VOID」にはどんな意味があるのですか?

「VOID」は英語で「空虚」「虚無」「無効」を意味する言葉。「空虚を意味するタイトルにふさわしく、冒険もドラマも友情もノスタルジーもない。あるのはただ恐怖だけの学校の怪談」と評されるように、作品のトーンそのものを体現している。物語の核にある「満たされない何か」「抜け落ちた感情」を一語で示したタイトルと読むことができる。

原作はありますか?実話が元になっていますか?

本作は岩崎裕介によるオリジナル脚本。「NN4444」は、国内外の映画祭・広告賞などで高く評価される新鋭監督4名が「現代社会における不条理」をそれぞれの視点から描いた、完全オリジナルの短編集として企画されており、特定の実話や原作小説・漫画に基づく作品ではない。

監督・岩崎裕介の他の代表作は?

岩崎裕介は2026年、映画レーベル「NOTHING NEW」から自身初となる脚本・監督長編作品『チルド』を発表。第76回ベルリン国際映画祭において、国際映画批評家連盟賞を受賞している。CMディレクターとしては63rd ACC CREATIVITY AWARDSフィルム部門グランプリを受賞するなど、広告分野でも実績を積む。次回作として『チャオ・ヤングの墓』が2026年9月18日公開予定。

主演・野内まるは他にどんな作品に出ていますか?

野内まるはモデル活動からスタートし、女優としてドラマや映画に出演。近年はNHK連続テレビ小説『ばけばけ』でのウメ役や、TBS日曜劇場『御上先生』での戸隠栞役で一気に知名度を上げた。2025年にはNetflixドラマ「阿修羅のごとく」や映画「アンダーニンジャ」にも出演。本作出演時点でキャリア初期の段階にあり、その後の急成長が際立つ。

『VOID』に受賞歴はありますか?

第53回ロッテルダム国際映画祭 Tiger Competition部門選出、第67回サンフランシスコ国際映画祭コンペティション部門選出、レインダンス映画祭 2024 Best Short of the Festival 入選、ヴェネツィアショートイタリア映画祭 セミファイナリスト、リスボン国際インディペンデント映画祭 2024 International Competition部門選出など、初監督作としては異例の映画祭歴を持つ※2。日本国内の映画賞ではなく、海外映画祭における評価が際立っているのが特徴。

こんな人に

・Jホラーが好きだけど、「説明過多」にうんざりしている人
・抽象的な映像表現と、ちゃんとした「理由」が両立している作品を探している人
・新世代の日本人監督を早めに押さえておきたい人
・『チルド』(2026年7月公開)の岩崎裕介監督の出発点を知りたい人
・ホラーをあまり観たことがないけれど、24分なら試せるという人
・CMやMVなど、短い尺で人を動かす映像表現に興味がある人

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