視聴方法
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あらすじ
昭和54年(1979年)の東京。竹沢家の四姉妹——長女・綱子(大竹しのぶ)、次女・巻子(黒木瞳)、三女・滝子(深津絵里)、四女・咲子(深田恭子)——は、70歳を超えた父・恒太郎(仲代達矢)に子連れの愛人がいることを知る。その衝撃をきっかけに、それぞれが抱えていた男性関係の綻びが次々と露わになっていく。妻子ある男と不倫中の長女、夫の不倫を疑う次女、恋愛下手な三女、彼氏と同棲中の四女——日常の奥底に潜んでいた欲望や嫉妬が、静かに、しかし確かに浮かび上がってくる物語。
見どころ
四人の演技派が競演する”感情の地層”
大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子という四人が、それぞれまったく異なる女性像を体現する。抑制の効いた表情の奥に滲む複雑な感情の地層を、それぞれの俳優が異なる呼吸で演じきっている。第27回日本アカデミー賞では深津絵里が最優秀助演女優賞を受賞しており、その存在感は作品全体の空気を大きく左右している。また大竹しのぶも同賞の優秀主演女優賞にノミネートされ、豪華競演陣の緊張感が画面を引き締めている。随所に大物俳優が登場しながら、ドラマの集中を損なわないのは、役柄に合ったキャスティングが徹底されているからだという指摘もある。
昭和54年の空気を再現した美術と衣裳
原作の昭和54年前後の風景——美術、衣裳、小道具——の再現には細心の注意が払われた※1。撮影はカラー/ビスタサイズ/ドルビーSRDの仕様で、撮影監督・北信康、美術・山崎秀満がその世界を作り上げた。物語の重さを受け止めるように作り込まれた舞台が、登場人物たちの日常をリアルに肉付けしていく。
暗部をユーモアで包む演出の妙——そしてラストの余韻
どろどろした嫉妬や不倫、欲望が題材でありながら、作品全体を流れる空気はどこか軽やかで、時にユーモラスですらある。森田監督は本作では得意の遊び心溢れる演出を封印し、終始落ち着いた雰囲気とカット割りでドラマを撮りきっている※2。向田邦子の原作が持つ日常と暗部の同居を、過剰に重くなることなく映像化した絶妙な配分は本作最大の見どころといえる。そしてそのトーンは最後まで一貫する。「飛行塔を見上げる冒頭から食事シーン、見事な緩急のラストまで、森田監督ならではの名演出が冴え渡る一本」と評される所以は、このラストシーンの余韻にこそある※3。核心は観て確かめてほしいが、終わった後に残るものが、この映画の本当のテーマを静かに指し示している。
制作背景
本作は、向田邦子が1979年〜1980年にNHK土曜ドラマ枠で発表した「阿修羅のごとく」パートI・IIを、一本の映画として再構成したものだ。79年にNHKで放映されて人気を博した向田邦子原作・脚本の同名ドラマを、『模倣犯』(2002年)の森田芳光が監督し、『失楽園』(1997年)の筒井ともみの脚本で映画化した※4。筒井ともみは自身が向田邦子賞を受賞しているという経歴もあり、向田邦子原作を意識した豪華キャスト・スタッフによる本格派文芸大作となっている※5。なお、脚色は筒井ともみにとって向田邦子作品を扱う三度目となった※1。
向田邦子の原作ものを撮るのが昔からの夢だったという森田芳光は、敬愛する作家の世界に寄り添うべく、通常の演出スタイルをあえて抑制した。国立映画アーカイブが2025年10月に開催した「映画監督 森田芳光」特集でも本作は代表作の一本として再上映されており、監督のフィルモグラフィにおける重要な位置づけが改めて示されている※1。
キャスティングにも原作ドラマへの敬意が息づいている。NHKドラマ版に出演した八千草薫と桃井かおりらが本作にも参加し、連続性が図られた。具体的には、1979年〜80年に放送されたテレビドラマ「阿修羅のごとく」のときは次女の巻子役だった八千草薫が、今回は四姉妹の母親役で出演している。また原作ドラマで長女・綱子を演じた加藤治子は、本作ではナレーションとして参加した。さらに深津絵里の恋人役に中村獅童、黒木瞳の娘役として当時無名だった長澤まさみも出演している※4。
技術面では、撮影・北信康、美術・山崎秀満、音楽・大島ミチル、配給・東宝という布陣で制作された。また本作は第16回東京国際映画祭のオープニング作品として選出された※5。エンディングテーマにはブリジット・フォンテーンの「ラジオのように」が使用されている※6。
受賞面でも本作は高く評価された。第27回日本アカデミー賞では森田芳光が最優秀監督賞を受賞※7、筒井ともみが最優秀脚本賞を受賞※8、深津絵里が最優秀助演女優賞、八千草薫が助演女優賞の優秀賞にノミネートされた※9。中村獅童も優秀助演男優賞を受賞している※10。また第46回ブルーリボン賞では森田芳光が監督賞を受賞し、第16回日刊スポーツ映画大賞でも作品賞と助演女優賞(八千草薫)を獲得した。
感想
観る前から、だいたいどんな映画かはわかっていました。向田邦子の原作で、森田芳光の演出。その組み合わせが出す答えは、想像の中にほぼ正確に存在していた気がします。
実際に観ると、その想像の範囲にぴたりと収まっていました。これを裏切られなかったと取るか、期待通りだったと取るかは微妙なところ。でも正直に言えば、想像していた雰囲気のまんまだったことが、なぜかどこか心地よかったのです。
「阿修羅」という言葉の意味を、あらためて考えさせられます。嫉妬・怒り・執着の象徴とされる存在でありながら、元々は良い神だったという。善と悪が混在する——この映画の四姉妹も、まさにそういう存在として描かれています。不倫をしている長女も、夫の浮気に気づきながら目を向けようとしない次女も、どこか晴れやかな顔をしている。よくないことに出くわしたとき、どこか楽しんでいるようにも見えてしまう。その表情の奥に何があるのか、観ながらずっと考えていました。
向田邦子のテーマは日常生活とその暗部だと感じます。人が日常の中に隠し持っているものを、彼女は静かに、しかし鮮明に書く。そこに森田芳光の演出が加わることで、その暗部が過剰にならない。むしろ軽やかに、時にユーモラスに、画面の中を流れていく。重いものを重く見せない技術というか、重いとわかっていながらつい笑ってしまう瞬間がある。この映画の不思議な魅力はそこにあると思っていて、どろどろした話なのに、観終わった後の空気が案外爽やかなんです。
昨今の映画には、女性の強さや痛みを叫ぶように提示する作品が増えている気がします。フェミニズムを真正面から掲げた映画も多い。でも本作は、それを言葉や主張としてではなく、姉妹たちの振る舞いや表情の中に静かに溶かし込んでいる。男が単純でだらしなく見えるのに対して、女たちはどれだけ傷ついても凛としている。その落差が説得力になっている。声高に何かを主張するよりも、こちらの方がよほど力強く感じました。
四姉妹という構造についても、観ながら気になっていたことがあります。なぜ「四」なのか。ひとつの解釈として、長女と次女を除いた三女と四女は実はほとんど男女の問題を抱えていない、という点が引っかかりました。むしろ母が娘たちを姉妹のような近しい存在と感じていて、その距離の近さが物語に反映されているのかもしれません。そして「阿修羅」の顔は三つ。この「3」という数字が作品のどこかに絡んでいる気がしてなりません。確証はないけれど、そういう遊びが仕込まれていそうな映画でした。
ただ、やはり「想像の中にあった映画」という感触は最後まで変わらなかった。想像を超える何かに出会いたかった、という気持ちも少しあります。でもそれは、この作品への期待の高さの裏返しでもある。向田邦子と森田芳光という組み合わせに対して、最初から高いところにハードルを置いていたのだと思います。
ほのぼのとした空気の底に、いつでも刺せるぞという余裕が漂っている。女の怖さと強さと、その華やかさ。人の暗部を心地よく見せてくれる映画でした。
他の人の見方
1979年〜80年のNHK版を先に観ていた層からは、「これだけの俳優が出ていて、今一つと感じてしまう」という辛口の評価も見られる。原作ドラマの完成度が高いぶん、映像化への期待値が上がりすぎてしまうという声もあり、「めくるめく怒涛の展開を期待していたのになかなか面白くならない」という感想もある※11。一方でシネフィルの批評では、向田邦子の原作ものを撮るのが昔からの夢だったという森田監督が、遊び心溢れる演出を封印して原作世界に寄り添った作品として肯定的に評価されている※2。評価が二分する背景には、オリジナルドラマ版を体験しているかどうかという”比較の基準の違い”が大きく影響していると見ていい。
よくある質問
タイトル「阿修羅のごとく」にはどんな意味がありますか?
「阿修羅」は仏教における戦闘的な鬼神で、嫉妬・怒り・執着の象徴として知られる。もともとは善神だったとも伝えられ、善悪が混在する複雑な存在だ。本作に登場する四姉妹も、慈しみと嫉妬、愛情と執着を同時に抱える人間として描かれており、そのありようを「阿修羅のごとく」と表現している。また阿修羅の顔は三つであることも、この作品の構造と無縁ではないかもしれない。
原作や元になった作品はありますか?
原作は向田邦子脚本のテレビドラマで、1979年1月〜27日にNHK土曜ドラマ枠で3話、翌1980年1月〜2月に続編4話が放送された。脚本は文庫本としても出版されており、向田邦子の代表作のひとつに数えられる。2003年の映画版はこのNHKドラマを一本の映画として再構成したものだ。その後2004年には舞台化、2025年にはNetflixで是枝裕和監督による再ドラマ化もされている。
受賞歴を教えてください。
第27回日本アカデミー賞では、最優秀監督賞(森田芳光)、最優秀脚本賞(筒井ともみ)、最優秀助演女優賞(深津絵里)の3部門で最優秀賞を受賞した。中村獅童も優秀助演男優賞を受賞している。さらに第46回ブルーリボン賞監督賞(森田芳光)、第16回日刊スポーツ映画大賞作品賞および助演女優賞(八千草薫)も受賞した。
ラストシーンはどんな意味を持っていますか?(ネタバレなし)
結末そのものはここでは明かさない。ただ言えるのは、このラストが本作のテーマを最も端的に体現している、ということだ。嫉妬も怒りも、欲望も愛情も——姉妹たちが全編を通じて抱えてきたものが、最後の数カットで静かに結ばれる。「見事な緩急のラスト」と評されるこの締めくくりは、派手な解決や和解を見せるわけではない。それでも、観終わった後にじんわりと残るものがある。そのじんわりとした余韻こそが、向田邦子と森田芳光が共同で作り上げた答えだと感じる。
監督・森田芳光の他の代表作は?
森田芳光の主な作品には、『家族ゲーム』(1983年)、『失楽園』(1997年)、『模倣犯』(2002年)、『椿三十郎』(2007年)、『武士の家計簿』(2010年)などがある。いずれも商業映画の枠内でジャンルを横断しながら独自の演出を刻み込んできた監督であり、本作はその中でもとくに”抑制”を武器にした一作として際立っている。
こんな人に
・向田邦子の原作が好きで、その世界観を映像で体験したい人
・大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子という豪華キャストの競演を観たい人
・女性の複雑な内面を、押しつけがましくなく描いた作品を探している人
・昭和の東京の風景と空気感を、丁寧に再現した映像作品に惹かれる人
・家族ドラマをあまり観てこなかった人でも、軽やかなユーモアの中に深みがある物語なので入りやすい
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出典
- ※1 国立映画アーカイブ
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